聖女、君子じゃございません
 ふ、と声を上げて殿下は笑った。殿下は俺とアーシュラ様を交互に見、陛下に向けて目を細める。それからゆっくりとアーシュラ様の前に歩み寄ると、彼女の手を握った。眩暈がした。


「――――俺の従兄弟は、アスベナガルの王太子の何百倍も良い男だ」

「…………え?」


 殿下はそう言うと、穏やかな表情で笑った。アーシュラ様が目をしばたかせる。俺は大きく息を呑んだ。


「それに、俺とアスベナガルの王太子とでは、同じ王太子でも格が違う。アスベナガルの王太子の地位は、我が国の公爵令息以下。そちらの方がずっと気分が良い。だから、アーシュラ、おまえは安心してローランと結婚しろ!」


 殿下はそう言って満面の笑みを浮かべた。


「殿下……」


 アーシュラ様が目を見開く。俺は胸が熱くなった。
 この理屈なら、王家のプライドは保たれるし、国民感情的にも受け入れやすい。
 それに、提唱したのは他でもない殿下自身だ。異を唱えるものはそういないだろう。殿下らしい、最高の祝福だと俺は思った。


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