聖女、君子じゃございません
「聖女っていうのは本当に……すごい存在ですね」


 そんな特別な女性を妻にしようとしている俺は、ともすれば神の怒りを買いかねない。そう思うと少しだけ――――ほんの少しだけ、怖かったりする。


「えへへ……そうでしょ? だからこそ、ローラン様の役割はとっても重要なんですよっ」


 アーシュラ様はそう言って俺の手をギュッと握る。笑顔の威力が凄まじい。可愛い。可愛くて堪らない。俺は密かに胸を高鳴らせた。


「一説によると、聖女は幸せであればあるほど、その力を発揮できるし、信じられないような奇跡を起こせるものなんですって! つまり、ローラン様がわたしを幸せにしてくれたら、その分人助けができて、みーーんなハッピーになれるって寸法なんです!」

「それは……本当に責任重大ですね」


 答えながら俺は、アーシュラ様の左手にそっと唇を落とす。薬指には鮮やかな青色をした宝石が光輝いている。ブルーダイヤのエンゲージリングだ。
 以前アーシュラ様に贈ったイヤリングの色味に近い。どうしてこの色が良いか尋ねたら『俺の瞳の色だから』と即答された。胸がむず痒かった。


「必ず、幸せにします」


 決意を新たに、そう口にすると、アーシュラ様は破顔する。


「今も、めっちゃくちゃ幸せですよっ」


 胸が温かくなった。

< 104 / 125 >

この作品をシェア

pagetop