聖女、君子じゃございません
「実はお金がっ……! 至急、お金が必要なんですっ。アスベナガルでも、金持ち相手にたくさん稼いで、早くお金を貯めましょう! ねっ!」

「……はぁ⁉」


 アーシュラ様は手のひらをワキワキと動かし、切実な表情で俺を見上げている。


「―――――全く、今度は一体どうしたんですか?」


 言いながら自然と笑みが漏れた。
 アーシュラ様が突拍子がない方なのはいつものこと。旅の資金は十分にあるし、彼女の意図がそこにないことは明白である。

 ポンポン頭を撫でてやると、アーシュラ様は頬を染め、わずかに唇を尖らせた。幼子のような、妖艶な大人の女性のような、なんとも言えない表情が俺を惑わせる。それを心地良いと感じているあたり、俺は相当彼女に毒されている。末期だ。


「だってわたし……早くローラン様の赤ちゃんが産みたいんだもんっ!」


 アーシュラ様はそう言って、今にも泣きそうな表情で俺のことを抱き締めた。あまりの衝撃発言に、リアルに心臓が止まりかける。身体中の血液が一気に沸騰した。


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