聖女、君子じゃございません
「なっ……なっ…………! 何を言い出すかと思えば!」


 俺は情けないほどに狼狽えていた。これまで、アーシュラ様のありとあらゆる発言に振り回されてきた俺だが、今回の発言はずば抜けている。ヤバい。何がヤバいって、俺の理性が一番ヤバい。今が昼間で、野外で、少し離れた場所に部下が居てくれて、良かった。そう心から思わずにはいられない。


「大体、どうやったら今の発言から、『お金が必要』って話に繋がるんですか?」


 心臓が恐ろしいぐらいに早鐘を打っている。正直今は、俺から少し離れてほしい。けれど、アーシュラ様はこれでもかという程、俺のことをキツく抱き締めなおした。


「だって、早くお金を貯めないと、ゆっくり子育てできないんだもの」


 そう言ってアーシュラ様は、片手だけを俺から離し、ごそごそとカバンを漁った。出てきたのは、領主たちから貰った宝石のなれの果て――――金貨が入った麻袋だ。売り払った時にはもっと量が多かったはずなので、いくらか預けてきたのかもしれない。ジャラッと音を立てて中身が鳴った。


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