聖女、君子じゃございません


「で? 今度は一体何をやっているんです?」


 ローラン様が困惑気味にそう尋ねる。


「そうですねぇ。逆に、何をしているように見えます?」


 わたしは今、広間に設置した大なべに花びらを大量に入れ、ぐつぐつと煮込んでいる最中だ。上澄みは濃いピンクの液体。辺りには甘ったるい濃厚な香りが漂い、嗅いでいるだけで酔ってしまいそうな程である。


「……毒薬でも煎じているんですか?」

「失礼な! これは香水! 香水なんです!」

「香水? これが?」


 市販の香水がどんな風に作られているかなんて分からない。だけど、わたしには神様という強い味方がいる。花びらを煮込んで、ちょちょっと聖女の力を加えたら、とんでもなく上質な香水が出来上がるに違いない。


(だって、男性は甘い香りに弱いって聞いたんだもん~~)


 情報源であるアレク殿下によれば、香っていうのは人を惹きつける作用があるらしい。そんでもって、欲やら感情やらを揺さぶる効果なんかもあるらしい。

 神様印の香水を付け、ローラン様を誘惑する――――この作戦なら、強情っぱりのローラン様だって簡単に篭絡できる筈。そう思って香水作りに勤しんでいるわけだけど……。


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