聖女、君子じゃございません
「俺はあまり好きな香りじゃありませんね」


 袖口で鼻を覆いつつ、ローラン様が口にする。思わず膝から崩れ落ちた。


「なっ……! なな! そんなぁ……」


 作戦失敗。ローラン様が嫌いだったら意味がないもの。


(ダメだ……わたしじゃローラン様を誘惑なんて、出来ないのかな?)


 しょんぼりしていたら、ローラン様はため息を吐く。それから、わたしの頭を優しく撫でた。


「てっきり売り捌く気なのかと思ってましたけど、ご自分で使う用なんですか?」

「そうですよ。わたしが使う気満々です」


 売り捌くなんて発想は無かったけど、この香水に残された道はそれしかないのかもしれない。勿体ないし、自分ではいい香りだと思うもの。ローラン様はダメでも、気に入ってくれる人も居るかもしれないし。


「アーシュラ様には香水なんて必要ありませんよ」

「だけど! そうかもしれないけど……!」

「だって、そんなものなくても、いつも良い香りですし」


 そう言ってローラン様は、わたしの額にそっと口付ける。


「好きデス!」


 結局、香水作戦も失敗に終わった。

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