聖女、君子じゃございません
(まぁ、アーシュラ様だからなぁ……)


 致し方ないと思い始めている辺り、俺は大分アーシュラ様に毒されていると思う。嘆息しつつ、俺はそっとアーシュラ様を見た。


「だったら、ひとまず俺の部屋で休みます? そしたら、少しぐらいはゆっくり――――」

「えっ、なに⁉ わたし、ついにローラン様に襲われるの⁉ 夜這いならぬ昼這い⁉」

「違います。断じて違います。……っていうか、訳の分からない言葉を作らないでください!」


 普段ならばもっと軽く流せるのに、どうしてかムキになってしまった。言いたいことを言って、少しだけ冷静になった頭でそんなことを考えていると、ふと、アーシュラ様の頬が先程よりも紅いのに気づいた。


「どうされました? やっぱり相当疲れてるんじゃ」


 俺がアーシュラ様の額にそっと触れると、アーシュラ様はビクッと身体を震わせた。ペリドットのような薄緑の瞳が、ウルウルと潤んでいる。鮮やかな桃色をしたアーシュラ様の唇が、何かに耐えるみたいに引き結ばれ、震え、俺は無意識にゴクリと唾を呑み込んだ。


「……うん。なんか、自分が思っていたより疲れてるみたい」


 アーシュラ様は俺の両手をギュっと握り、眉尻を下げる。その途端、心臓が何故だかいつもより早く鼓動を刻み始めた。


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