聖女、君子じゃございません
(自分だって体調が悪い癖に)


 俺はこれまで何度も、アーシュラ様のことを妖精のようだとか、天使のようだと形容してきた。その可憐さや美しさは、神の作った不可侵領域。誰にも汚すことのできない、完全なる美だと思っていた。

 けれど、違った。汗や土埃に塗れた今のアーシュラ様が、一番一等美しかった。涙が出るほど美しく、そして尊い。彼女が聖女であることを実感せずにはいられなかった。


(歯痒いな……こういう時、俺は何もできない)


 俺には聖女の力も無ければ、アーシュラ様の力になることもできない。できることと言えば、ただ傍観するだけだ。

 アーシュラ様と出会う前もそうだった。
 病に苦しんでいる人が居ても、お腹を空かせている民を見ても、手を差し伸べるだけの力がない。一人を救うならば、その後ろに控えた数十人、数百人、数千人を救わなくてはならない。それができないなら、おいそれと手を出すべきではない。そう思って生きてきた。


 だから、アーシュラ様がこの旅のお供に俺を選んでくれた時、俺は少しだけ――――ほんの少しだけ嬉しかった。彼女の力は、口先だけで何もできない、俺の理想を叶えることができる。多くの人を救うことができるのだと、そう思った。

 けれど、どこまでいっても、自身の無力感は拭えなかった。人々を癒し、救っているのはアーシュラ様だ。見ているだけで、俺には何もできやしない。そう思うと、悔しさが込み上げてくる。


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