聖女、君子じゃございません
「だからってあんなこと! ……わたし、めちゃくちゃビックリして!」

「そうでしょうね。でも、ああしたのは、あなたが自分で水を飲もうとしなかったからですし。……それにしても、少し水を飲んだぐらいで、あんな一気に力が回復するものなんですか? 俺はそっちの方にビックリして――――」

「知らない知らないっ! ローラン様のすけこまし!」


 アーシュラ様は眉間にグッと皺を寄せ、ブンブン首を横に振る。その様子があまりにも可愛らしく、それから愛おしく思う。


(――――愛おしい?)


 思いがけず湧き上がった己の感情に戸惑いつつ、俺はそっと胸を押さえる。先程からアーシュラ様の唇から目が離せない。今にも吸い付きたくなるほど、美しく色づいて見える。心臓が常より早く、鼓動を刻み続けていた。


(嘘だろう?)


 躊躇いがちにこちらを見上げるアーシュラ様と視線が絡む。潤んだ瞳。真っ赤な頬。鮮やかな唇に喉が鳴る。
 思わず口元を隠しつつ、俺は己の煩悩と向き合うのだった。
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