聖女、君子じゃございません
 俺たちの周りには『聖女が何かやっている』と物見遊山に来た町人達が集まってきていた。とはいえ多くの人間は、俺たちの皿の中身を見ると、すぐに踵を返してしまう。身を乗り出し残っているのは、ほんの十数人だけだ。
 アーシュラ様はぷぅと頬を膨らませつつ、クルリとジャネットに向き直った。


「ほらほらジャネット! 冷めちゃうから早く食べて食べて」


 ジャネットは躊躇いつつ、俺を見上げた。無理もない。あのおどろおどろしい調理過程を隣でずっと見ていたのだから。


「待ってください! もし万が一お腹を壊したら大変です。折角回復したのに、また寝込ませる気ですか⁉」

「失敬な! ちゃんと消化に良い食材を選んだし、寝込んだりしないもん! 心配だったらローラン様が毒見したらいいでしょっ」


 アーシュラ様はそう言って、俺の唇に粥入りのスプーンを突きつける。先日とは真逆の構図だ。俺はゴクリと唾を呑み、額にダラダラと汗を掻く。


「だっ……大体、あなたなら一切れのパンで数十人を満腹にできるでしょう? なんで急に、こんなこと」

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