聖女、君子じゃございません
「ささ、皆さんもどうぞっ」


 アーシュラ様はそう言って、羨まし気にこちらを眺めていた十数人を呼び寄せる。彼等の服は擦り切れていて、あまり清潔とは言い難い。きっとジャネットのように、家や家族がないか、仕事がなく食べるに困っている人たちなのだろう。
 アーシュラ様は彼ら一人一人に器を手渡し、何かしら言葉を掛けている。彼等の手を握り、元気づけ、祝福を与えている。


(何だかなぁ)


 敵わないなぁ、とそう思う。
 あれ程自分は『聖女じゃない』だとか『面倒』だとか言っていた癖に、全部全部嘘っぱちだ。アーシュラ様を知る度に、俺は自分の至らなさを知る。悔しい気持ちも有るけれど、それが全然嫌じゃない。本当に、敵わないと心から思う。


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