聖女、君子じゃございません
「ローラン様、これがザ・炊き出しって奴ですよ」


 全員に食事を配り終えると、アーシュラ様は俺の隣に移動する。


「――――少ない食糧で、多くの人の腹を満たせるのは、良いことです。飢えた人にとってもありがたいことだと思います。実際、沢山の人に喜んでもらえたし、わたしも嬉しかった。……だけど、どうせ食べるなら、ちょっとだけじゃなくて沢山、美味しいものを食べた方が絶対幸せです」


 アーシュラ様はそう言って俺の顔を見上げる。胸のあたりがほんのりと温かい。まだ、先程の食事の効果が持続しているのだろう。俺はコクリと頷いた。


「まぁ、お金が無限に使えるわけじゃないし、準備に労力も要りますから、そんなにしょっちゅう食事の用意はできませんけどね。
――――だけど彼等はお腹がいっぱいになった分、仕事を探せるかもしれない。一食浮いたお金で洋服を買えるかもしれない。
だから、短期的には炊き出しだって十分有効な方法です。
でも、お家を借りるためにはたくさんお金が必要だし、生活を整えられるだけの環境を用意するには、炊き出しだけじゃ不十分なんです。分かっているけど、それを用意するだけの力がわたしには有りません」


 アーシュラ様はそう言って軽く目を伏せる。
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