聖女、君子じゃございません

8.聖女、騎士の気知らず

「ふふふ……ふふふふふふ」


 アーシュラ様の部屋から響く不気味な声。俺は眉間に皺を寄せる。


(今度は一体、何をやらかす気だろう)


 過去に色々と前科があるため、怖さ半分、期待半分といった所だ。声を掛けるタイミングを失い耳をそばだてていたら、唐突に部屋の戸が開いた。


「ローラン様、良いところにいらっしゃいました!」


 一体いつ気づいたのだろう? アーシュラ様はそう言って、俺を強引に招き入れる。
 今日の部屋の状況はそこまで悪くない。つい先日まで、ジャネットと一緒に寝泊りをしていた影響だろう。

 ジャネットのことは数日前、王都からの伝令役に託した。国王陛下に地方の状況を直接見ていただくこと、しっかりと栄養を摂らせることが目的だ。
 アーシュラ様は少しだけ涙ぐんでいたが、再会を約束して、笑っていた。


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