聖女、君子じゃございません
 それから数日後、俺たちは国境近くの比較的大きな街へと来ていた。活気ある街並み。道行く人もどこか洗練されていて、何だか気分が高揚する。


(最近はずっと、貧しい村への訪問が続いていたからな)


 アーシュラ様は活き活きと仕事をしていたが、たまにはこういう、貧困とは縁のない都市に滞在するのも良い。


「今回は怪我や病気の治癒が主になりそうですね」


 俺の言葉にアーシュラ様はキョトンと目を丸くし、クスクスと笑う。思わぬ反応に、俺は首を傾げた。


「何ですか、その反応は?」

「案外こういう街って、見えない貧困層がいっぱいいるものなんですよっ」


 アーシュラ様はそう言って、路地裏の方へ目を向ける。その瞬間、薄闇の中、数人の人影がバタバタと走り去るのが見えた。もしかすると、追い剥ぎでも画策していたのかもしれない。俺は気持ちを引き締めた。


「都会には変な吸引力って奴があるらしいんです。近くの村や町で食うに困った人が、街に移って、家も持たずに生きて行くってことが往々にしてあるんですよ。ここなら残飯とか、まだ着れるのに捨てられた服とか、あれこれ入手できますからね」

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