聖女、君子じゃございません
 最近、何かが変だ。護衛のことを意識せずとも、気づけばいつも、アーシュラ様を目で追っている。笑わせてやりたいと思うし、甘やかしてやりたいと思う。ふとした時に、触れたくなる。美しい瞳から、ふっくらとした頬から、花のように鮮やかな唇から、目が離せなくなる。


(馬鹿か――――相手は聖女だぞ)


 決して汚してはならない存在。俺のような男がおいそれと触れて良い相手ではない。
 彼女に相応しい人間なんてこの世にいない。神のような人間がいれば話は別だが、王太子すらも力不足だと思う。


「――――そのイヤリングが気に入ったんですか?」


 邪念を振り払うように、俺はアーシュラ様に問い掛けた。先程から何度も、アーシュラ様が見つめていたイヤリングだ。手に取ってみればいいものを、瞳をキラキラさせながら、眺めることしかしていない。

 店主に断りを入れてからイヤリングを手に取ると、アーシュラ様の耳に着けてやる。青い透き通った石の埋め込まれた、至極シンプルなイヤリングだった。何がそんなに気に入ったのか、俺には分からないが。


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