聖女、君子じゃございません
(拭ってやりたい。抱き締めたい。……キスしたい)


 何度も深呼吸をしながら、欲を逃す。アーシュラ様の顔が見れない。
 アーシュラ様は一歩、また一歩と俺に近づいてきた。そのまま俺の背中に手を伸ばし、ギュッと抱き締めてくる。上目づかいで俺を見上げてくる。堪らない。


「……旅は続けます。俺はあなたの護衛騎士です」


 それ以上でも以下でもない。そう言外に伝えたつもりだった。


「わたしは……わたしは! 聖女である前に、ただの女だもんっ! ローラン様のことが好きな、ただの女の子だもん!」


 アーシュラ様はそう言って、俺の服を思い切り引っ張った。膝が折れる。目の前にアーシュラ様の綺麗な顔が迫っている。吐息が重なって胸が震える。我慢なんてできなかった。


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