聖女、君子じゃございません
***


「今日でこの街ともお別れですねぇ」


 アーシュラ様はそう言って機嫌よさげに笑った。広い街だ。数日掛けて色んな場所を見て回った。
 アーシュラ様の言う通り、栄えた街の中でも、困った人は沢山いた。困窮度合い、その理由は人それぞれだが、皆、困っていることに変わりはない。


「王都にもきっと、俺が知らないだけで、困った人が沢山いるんでしょうね」


 俺たちは一度、王都に帰ることにした。元々帰還勧奨がなされていたこともあるが、両親に伯爵令嬢との婚約を断る旨を伝えなければならない。アーシュラ様とのことも、許してくれるかは別として、報告したいと思っている。


「ローラン様、何だか緊張してます?」


 アーシュラ様が尋ねる。相変わらず目敏い。強がっていても、アーシュラ様にはすぐにバレてしまう。


「……そういうのは、知ってても口に出さないのがマナーですよ」

「えーー? 何で何で?」

「人間、好きな人の前では格好よく見られたいものですから」


 今の俺は『格好悪い』の烙印を押されているようなものだ。けれど、そんな俺の気も知らず、アーシュラ様は上機嫌に俺の手を握る。何がそんなに嬉しいんだろう。首を傾げずにいられない。


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