聖女、君子じゃございません
「なぁ、お前だって本当は、国に帰りたいと思っていただろう? 帰って俺の妃になりたいと、そう思っていたんだろう?」
「そんな、まさか! わたくしは一度だって、あなたの妃になりたいと思ったことはありませんでした」
アーシュラ様はそう言って、満面の笑みを浮かべた。男が目尻を吊り上げる。俺は剣の柄に手を掛け、牽制するように一歩前へ躍り出た。アーシュラ様が息を吸う。いつになく真剣な表情だった。
「殿下は聖女――――聖人君子を気取った、ただの偽善者には何の価値もないと吐き捨て、わたくしの言葉に耳を傾けてくださいませんでした。国の惨状に目を向けることも、何かを変えようとなさることもありませんでした。
相次ぐ戦争で、民が苦しんでいるのに……戦火で土地が荒れ果て、働き手を奪われ、食うに困っている多くの国民を見殺しにして、王家は私腹を肥やしていました。
わたくしはあんな酷い国の王太子妃になんて、なりたくなかった。聖女でなんていたくなかった……。あの国でわたくしは、聖女として、何も出来なかった。悔しかった。
だけど、この国に来てわたくしは――――わたしは知りました。ローラン様が教えてくれたんです。ローラン様は、わたしの突拍子もない話を聞いてくれた。ダメダメな部分でも真っ直ぐに受け止めて、支えてくれた。どうしたら良いか、一緒に考えてくれた。本当に、嬉しかった」
アーシュラ様は泣きそうな表情で俺の手を握る。目頭が熱くなった。
「そんな、まさか! わたくしは一度だって、あなたの妃になりたいと思ったことはありませんでした」
アーシュラ様はそう言って、満面の笑みを浮かべた。男が目尻を吊り上げる。俺は剣の柄に手を掛け、牽制するように一歩前へ躍り出た。アーシュラ様が息を吸う。いつになく真剣な表情だった。
「殿下は聖女――――聖人君子を気取った、ただの偽善者には何の価値もないと吐き捨て、わたくしの言葉に耳を傾けてくださいませんでした。国の惨状に目を向けることも、何かを変えようとなさることもありませんでした。
相次ぐ戦争で、民が苦しんでいるのに……戦火で土地が荒れ果て、働き手を奪われ、食うに困っている多くの国民を見殺しにして、王家は私腹を肥やしていました。
わたくしはあんな酷い国の王太子妃になんて、なりたくなかった。聖女でなんていたくなかった……。あの国でわたくしは、聖女として、何も出来なかった。悔しかった。
だけど、この国に来てわたくしは――――わたしは知りました。ローラン様が教えてくれたんです。ローラン様は、わたしの突拍子もない話を聞いてくれた。ダメダメな部分でも真っ直ぐに受け止めて、支えてくれた。どうしたら良いか、一緒に考えてくれた。本当に、嬉しかった」
アーシュラ様は泣きそうな表情で俺の手を握る。目頭が熱くなった。