聖女、君子じゃございません
「全く、この旅の途中、どれだけ『休憩』という名目で道草を食ったと思ってるんですか。こんな風に瞬間移動できるなら、あんなに道草を許しはしませんでした」

「でしょっ? そうでしょ? そうだと思ったから言わなかったの! だってだって、どうせなら自分の目で色々見て回りたいじゃない? 旅の醍醐味ってそっちの方じゃない? それに、ローラン様と旅するの、とっても楽しかったんだもん!」


 アーシュラ様はそう言って俺の手をギュッと握った。ズルい。アーシュラ様はズルい。俺がこれ以上怒れないと分かっていて、こんなセリフを平気で吐くのだ。妖精というより最早小悪魔である。これが、惚れた弱みというやつなのかもしれない。悔しい。


「ささ、気を取り直してこの不届き者達を城に連れてきましょっ」


 アーシュラ様はニコリと微笑むと、捕縛の輪へ繋がっている紐をグイグイ引っ張った。
 男達は屈辱に顔を歪め、アーシュラ様を睨みつける。が、文字通り手も足も出ないので、本当に睨むことしかできない。
 アーシュラ様は寧ろ心地よさそうに彼等の視線を受け止めると、ニンマリと凶悪な笑みを浮かべた。


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