聖女、君子じゃございません
***


「そなたの働きは、王都にいるわたしの耳にもしかと届いている。随分とたくさんの民を助けてくれたようだね」

「お褒めに預かり光栄です」


 陛下の御前で、アーシュラ様は恭しく頭を垂れる。国の最高権者を前に、相変わらず堂々とした佇まいだ。
 
 唐突な帰還にもかかわらず、王都の民衆は俺たちを温かく迎えてくれた。陛下の仰る通り、アーシュラ様の功績が、遠く離れた王都にまで届いていたのだろう。俺は自分のことみたいに誇らしかった。
 アーシュラ様が歩く度、歓声が湧き上がる。花びらが舞い、キラキラと後光が差す。本当に見事な凱旋パレードだった。
 その後を、苦々しい表情をした男三人がトボトボと歩くのだから、相当目立った。改めていい気味だと思った。


「ローラン、おまえが連れ帰ったその男――――アスベナガルの王太子というのは本当か?」


 尋ねたのは我が国の王太子、アレクサンダー殿下だった。従者と共に捕縛され、今や喋ることすら許されない憐れな男を見下ろしながら、怪訝な表情を浮かべている。


「はい、間違いございません。……今もまだ廃嫡されていないなら、ですけど」


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