聖女、君子じゃございません
 アーシュラ様はそう言ってニコリと微笑む。俺には馴染みの邪悪な笑みだ。何か良からぬことを考えている時に、アーシュラ様はこの表情を浮かべる。周囲の困惑をよそに、俺は思わずゴクリと唾を呑んだ。


「今アスベナガルは、わたくしがいなくなったことにより、数々の天災に見舞われております。彼の国にはもう、戦争をするだけの力はありません。けれど民にはなんの罪もない。ですからわたくしは、アスベナガルの天災を治めに行きたいと思っています。
けれど、その際に二つ、約束をさせます。
一つ目は二度と戦争を起こさないこと。二つ目は二度とわたくしに関わらないこと。その二つの約束を守らなければ、アスベナガルはまた、災禍に見舞われると。全ての元凶であるこの男を突き返し、民にも事実を明かした上で、アスベナガルに対して、盛大に恩を売りつけたいと思っているのです」


 アーシュラ様の声が響く。皆一様に困惑し、広間は奇妙な沈黙に包まれていた。


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