地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
第2章
飛竜という小型の竜の脚に捕まり空を飛び地上へ。初めて大穴の外に出たというのに、私は恐怖のあまりに感動する余裕もなくレオの腕の中でほぼほぼ気を失っていた。
「おい、おい、起きろ」
誰かが、自分の体を揺らす。んー、と眠気まなこで目を擦りながら鉛のようは体を起こすと、そこはもう馬車の中だった。黒と金を基調とした内装。立派な革張りの黒色のソファに、頭の下には品のある金色の刺繍を施したクッション。
起こしたのは隣に座っていたレオという人。真向かいには、さっき魔物と戦っていた2人が自分の寝起きの姿を見つめていた。
「もっと優しく起こしてやれよ、かわいそうに」
そう言うのは、1番体付きがガッシリした重そうな大きな斧を簡単に振り回していた人。短髪で少し目尻が下がっている。
「いや、こいつもう何時間も寝たじゃん。こっちはこんな窮屈な思いしてんのに」
私がソファを占領していたことに遠慮なく苦言を漏らすのは2本の剣で舞うように戦っていた人だ。髪の毛は癖毛なのか毛先が跳ね、アーモンドみたいな目を細めて薄い唇を尖らせている。
3人の王子の前で無遠慮に爆睡していたことに、改めて自分の状況を把握し慌てて姿勢を正した。
「ご、ごめ、」
「大丈夫、気にしなくて良い。君は俺たちにとって大事な客人だ。起きて早々申し訳ないんだが、簡単に自己紹介してくれるかい?」
「あ、わ、わたし、は」
「あのさ、もっとはっきり喋れないの?」
自分でも驚く位言葉が出てこなかった。まるで怒ったソフィアを目の前にしている時のように。緊張で萎縮しているせいなのか。
「アベル」
レオがきつい態度をとる彼、アベルを制するように、彼の名前を呼んで睨みつける。
私が自分から上手く話せないことに、斧の人が早々に話を切り上げた。
「悪かった、こちらから紹介しよう。俺は第一王子のグレン、そして隣にいる目つきが悪いのが第二王子のレオ、さっきから態度が悪いのが第三王子のアベル」
ぺこりと会釈をする。グレンという人は他の2人に比べてまだ話しやすそうだ。
「君はイヴで間違いないかな?天妖族とは外見が少し異なるようだけど、ご両親の出身はフェンリルかい?」
「わ、わかりません」
「罪人と言われていたが?」
「そ、それも、わからないんです」
「何も知らずに、ただただ、虐げられてきたのか。よくそんな理不尽耐えられたな」
あの大穴の中だけが世界の全てだった。閉鎖的で苦しい世界、その中のルールが理不尽っていうことも分からなかった位。
私は、これからどうなるんだろう?この王子様達とともにガイアへ行き、このレオという人を助ければ良いんだろうか?
戸惑う私の表情を察して、レオが黒布のカーテンを開けて外の景色を見せてくれた。
「ずっと、見たかったんだろう?」
「……これが外」
思わず、前のめりになって馬車から見える世界に釘付けになる。広大な大地に、聳え立つ山々。太陽の光に反射した湖がキラキラ光って綺麗。
まるで、絵画から飛び出てきたような景色。路面が荒いのかガタンガタンと揺れる体、入ってくる風が気持ち良い。
王子達を前に緊張していたのに、ふっと気が緩んだ瞬間、また強い睡魔に襲われる。今寝ちゃだめだと思いつつ、うつらうつら。瞼が何度もくっついたり、離れたり。
ふっと意識が途絶え、また、深い眠りに落ちていった。
***
懸命に睡魔と戦うイヴ、小さな体をゆらゆら左右前後に揺らし、やがてレオの肩という終着点を見つけると、スヤスヤと寝息をたて始めた。
「天妖族ってこんなに寝んの?」
眠り始めたイヴに、アベルが肘掛けに肘をつきながら呆れたように言う。
「さっき聖女の力を使ったその反動だろうな。死にそうな人間を治癒し、レオの狂人化を止めた」
グレンが神妙そうに、フェンリルでの出来事を振り返る。あの全身黒いローブに覆われた、あの男のことについてだ。
「狂人化を止める方法が見つかったというのに、アイツはこいつを俺達に託した。アイツだって喉から手が出る位欲しかったろうに」
そのグレンの言葉に、弟2人もイヴの無防備な寝顔を見て同感した。本当なら、今、自分達の手元にあることが不思議な位の世界を変える力。
「あそこで奪い合いになれば、十中八九アイツの手中にできたのに、それなのに何故俺たちに譲ったのか。何か、もっと大きな事件に巻き込まれて利用されてるような気がしてならない」
しばしの沈黙。重い雰囲気に耐えきれず、末っ子のアベルが天を仰いだと思ったら特大のため息を吐いた。
「はぁ~っ。そんな考えてたらハゲんぜ?」
ハゲ?ぴくっとこめかみに力が入る兄2人。
「とりあえず戦力維持することだけ考えよう。宰相が言うように、どこの国も俺達の対策講じてきてる。ここでレオが使い物にならないなんて噂広がったら、連日連夜戦になるぜ」
「そのためにはさっさと治して欲しいものなんだが」
歯切れ悪そうに言うグレン。
「レオの治療っていうのはアレしかない訳?」
アベルの直球ストレートな問いかけ、アレとは口づけのことだ。
「分からない」
口づけ、体液の交換。三者三様、思考を巡らすがあまり良い案は浮かばない。
「だけど、毎回、戦場でやられると兵士の士気に関わる」
げんなりしながら言うアベル。
「あぁ、第一彼女が可哀想だ、今後他の方法がないか模索していこう」
グレンの"彼女が可哀想"という言葉がひっかかる。常識人ぶって三兄弟の中で一番利己的な男だ。
「さっきの話だと、こいつの顛末は、あの大穴の地下深くに閉じ込められるんだろう?まぁ、俺らには関係ないことだけどな」
吐き捨てるように言うアベル。我々は気狂い伯爵アンバー達やモンスターから国を救ってやった。彼女を報酬として得るだけの正当な成果がある。
そして、その利用目的はレオの治療のみ。それが終えたら、用無しだ。ガイアで匿う理由も、守ってやる義理もない。
口には出さないものの、そんな共通認識だった。そんな中、珍しく人に情を抱き始めていたレオが口を開いた。
「彼女は辛い目にあってきた。理不尽に耐えながら、人に優しくできる人間は幸せになるべきだ」
彼女には治療してもらわなくてはいけない。
だけど治療が終わったら戦や魔獣、その他色々なしがらみから1番遠いところで、平穏に自由に生きて欲しい。
肩にもたれかかるイヴの頭を自分の膝上へ移す。片手を小さな体へ置いた。この小さなか弱い存在を、それまでに絶対傷つけやしないと誓って。
「おい、おい、起きろ」
誰かが、自分の体を揺らす。んー、と眠気まなこで目を擦りながら鉛のようは体を起こすと、そこはもう馬車の中だった。黒と金を基調とした内装。立派な革張りの黒色のソファに、頭の下には品のある金色の刺繍を施したクッション。
起こしたのは隣に座っていたレオという人。真向かいには、さっき魔物と戦っていた2人が自分の寝起きの姿を見つめていた。
「もっと優しく起こしてやれよ、かわいそうに」
そう言うのは、1番体付きがガッシリした重そうな大きな斧を簡単に振り回していた人。短髪で少し目尻が下がっている。
「いや、こいつもう何時間も寝たじゃん。こっちはこんな窮屈な思いしてんのに」
私がソファを占領していたことに遠慮なく苦言を漏らすのは2本の剣で舞うように戦っていた人だ。髪の毛は癖毛なのか毛先が跳ね、アーモンドみたいな目を細めて薄い唇を尖らせている。
3人の王子の前で無遠慮に爆睡していたことに、改めて自分の状況を把握し慌てて姿勢を正した。
「ご、ごめ、」
「大丈夫、気にしなくて良い。君は俺たちにとって大事な客人だ。起きて早々申し訳ないんだが、簡単に自己紹介してくれるかい?」
「あ、わ、わたし、は」
「あのさ、もっとはっきり喋れないの?」
自分でも驚く位言葉が出てこなかった。まるで怒ったソフィアを目の前にしている時のように。緊張で萎縮しているせいなのか。
「アベル」
レオがきつい態度をとる彼、アベルを制するように、彼の名前を呼んで睨みつける。
私が自分から上手く話せないことに、斧の人が早々に話を切り上げた。
「悪かった、こちらから紹介しよう。俺は第一王子のグレン、そして隣にいる目つきが悪いのが第二王子のレオ、さっきから態度が悪いのが第三王子のアベル」
ぺこりと会釈をする。グレンという人は他の2人に比べてまだ話しやすそうだ。
「君はイヴで間違いないかな?天妖族とは外見が少し異なるようだけど、ご両親の出身はフェンリルかい?」
「わ、わかりません」
「罪人と言われていたが?」
「そ、それも、わからないんです」
「何も知らずに、ただただ、虐げられてきたのか。よくそんな理不尽耐えられたな」
あの大穴の中だけが世界の全てだった。閉鎖的で苦しい世界、その中のルールが理不尽っていうことも分からなかった位。
私は、これからどうなるんだろう?この王子様達とともにガイアへ行き、このレオという人を助ければ良いんだろうか?
戸惑う私の表情を察して、レオが黒布のカーテンを開けて外の景色を見せてくれた。
「ずっと、見たかったんだろう?」
「……これが外」
思わず、前のめりになって馬車から見える世界に釘付けになる。広大な大地に、聳え立つ山々。太陽の光に反射した湖がキラキラ光って綺麗。
まるで、絵画から飛び出てきたような景色。路面が荒いのかガタンガタンと揺れる体、入ってくる風が気持ち良い。
王子達を前に緊張していたのに、ふっと気が緩んだ瞬間、また強い睡魔に襲われる。今寝ちゃだめだと思いつつ、うつらうつら。瞼が何度もくっついたり、離れたり。
ふっと意識が途絶え、また、深い眠りに落ちていった。
***
懸命に睡魔と戦うイヴ、小さな体をゆらゆら左右前後に揺らし、やがてレオの肩という終着点を見つけると、スヤスヤと寝息をたて始めた。
「天妖族ってこんなに寝んの?」
眠り始めたイヴに、アベルが肘掛けに肘をつきながら呆れたように言う。
「さっき聖女の力を使ったその反動だろうな。死にそうな人間を治癒し、レオの狂人化を止めた」
グレンが神妙そうに、フェンリルでの出来事を振り返る。あの全身黒いローブに覆われた、あの男のことについてだ。
「狂人化を止める方法が見つかったというのに、アイツはこいつを俺達に託した。アイツだって喉から手が出る位欲しかったろうに」
そのグレンの言葉に、弟2人もイヴの無防備な寝顔を見て同感した。本当なら、今、自分達の手元にあることが不思議な位の世界を変える力。
「あそこで奪い合いになれば、十中八九アイツの手中にできたのに、それなのに何故俺たちに譲ったのか。何か、もっと大きな事件に巻き込まれて利用されてるような気がしてならない」
しばしの沈黙。重い雰囲気に耐えきれず、末っ子のアベルが天を仰いだと思ったら特大のため息を吐いた。
「はぁ~っ。そんな考えてたらハゲんぜ?」
ハゲ?ぴくっとこめかみに力が入る兄2人。
「とりあえず戦力維持することだけ考えよう。宰相が言うように、どこの国も俺達の対策講じてきてる。ここでレオが使い物にならないなんて噂広がったら、連日連夜戦になるぜ」
「そのためにはさっさと治して欲しいものなんだが」
歯切れ悪そうに言うグレン。
「レオの治療っていうのはアレしかない訳?」
アベルの直球ストレートな問いかけ、アレとは口づけのことだ。
「分からない」
口づけ、体液の交換。三者三様、思考を巡らすがあまり良い案は浮かばない。
「だけど、毎回、戦場でやられると兵士の士気に関わる」
げんなりしながら言うアベル。
「あぁ、第一彼女が可哀想だ、今後他の方法がないか模索していこう」
グレンの"彼女が可哀想"という言葉がひっかかる。常識人ぶって三兄弟の中で一番利己的な男だ。
「さっきの話だと、こいつの顛末は、あの大穴の地下深くに閉じ込められるんだろう?まぁ、俺らには関係ないことだけどな」
吐き捨てるように言うアベル。我々は気狂い伯爵アンバー達やモンスターから国を救ってやった。彼女を報酬として得るだけの正当な成果がある。
そして、その利用目的はレオの治療のみ。それが終えたら、用無しだ。ガイアで匿う理由も、守ってやる義理もない。
口には出さないものの、そんな共通認識だった。そんな中、珍しく人に情を抱き始めていたレオが口を開いた。
「彼女は辛い目にあってきた。理不尽に耐えながら、人に優しくできる人間は幸せになるべきだ」
彼女には治療してもらわなくてはいけない。
だけど治療が終わったら戦や魔獣、その他色々なしがらみから1番遠いところで、平穏に自由に生きて欲しい。
肩にもたれかかるイヴの頭を自分の膝上へ移す。片手を小さな体へ置いた。この小さなか弱い存在を、それまでに絶対傷つけやしないと誓って。