透明な君と、約束を

「知世は一見クールビューティー系なのに、中身は優しくて世話焼きのお人好しだからね、この世界で生きるには図太くないとと思ってたから安心した」
「褒められてる気がしないしそこまで弱くないって」

良い人間はあんなやり方はしないよ、なんて思うけれど私達のいる世界は礼儀を重んじてだけど自分を売り込むことを忘れてはならない。
受身でいたってそれは美徳にはならない事の方が多いって言うのはわかっているけれど。
あはは、と私の言葉に未だ笑うリサが、何かに気付いて私の後ろを指さす。

「王子様のご登場」

何のことかと振り向いてみると、颯真が遅刻だというのに女子や男子に囲まれ教室に入ってきたところだった。
私と目が合い無邪気な顔で走り寄ってきたので挨拶をする。

「おはよう」
「おはよ。
朝一からしごかれて腹減った」

午前中は育成スクールだったらしく席に行ってどかりと椅子に座ると、ごぞごそビニール袋をひっくり返しおにぎりやらパンやらを机に広げた。

「やだ、野菜が無いじゃない。
このミニトマトあげる」
「俺が生のトマト嫌いなの知ってるだろ。
嫌がらせか」
「トマトは栄養あるんだよ。
これくらい食べられないともっと大きくならないぞー」

その言葉に颯真はウッと言葉を詰まらせた。
颯真の今の身長は約178センチギリギリらしく、180を越えることを目指しているので私の言葉が引っかかったようだ。
私のあげたミニトマトを嫌そうな顔でつまみ上げると目を瞑って一つ口に放り込み咀嚼すれば、男前の顔が苦痛に歪んだ。
ケラケラ笑う私に、ムッとした颯真が私の両頬に手を伸ばしてきた。
その手は大きくてあっという間に私の顔など包み込めそうなほど。
そして私の頬を摘まんで引っ張った。

「うわ、餅みてぇ」
「いひゃい!!」

そんなに力は入れていないが私の頬をふにふにするのでその手を叩く。
颯真は私の怒る姿を見て意趣返しに成功したと思ったのか、機嫌を直したように食事を取りだした。
なんて子供なのだろう、どこが硬派なんだかと呆れて席に戻れば、リサが机に頬杖をつきながら、

「この夫婦は会った途端イチャイチャとまぁ」
「ミニトマト食べさせただけです、あと誰が夫婦なのよ」
「女子で天然なのは男子にポイント高いわよ。
で、優しくて世話焼きなお人好し。
別名おかんね、決定」
「嫌なあだ名つけないでよ!」
「おかん~、今度はチョコちょーだい!
以前美味いのあげたろー、あれにして」
「うるさい!早くご飯食べなさい!」

颯真がリサとの会話に割り込んできたので思わず大きな声で返せば、やっぱおかんじゃん、とリサが笑っている。
颯真も私に怒られたというのに何故か楽しげにサンドイッチを頬張っていて、私が疲れた気分で前を向けばリサがまたニヤニヤと私を見ていた。

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