透明な君と、約束を
「お疲れさまでした」
車でテレビ局関係者入り口前まで送ってくれたスタッフさん達に深々と頭を下げる。
会社の解散場所よりこちらの方が撮影場所から近かったため、降りたのは私一人だけ。
降りるときに横から嫌な視線をヒシヒシ感じていたけれど存在を無視するわけにはいかないのできちんと彼女たちに挨拶したが突然音楽を聴き始め無視された。
まぁそんなことは気にしていても仕方が無い。
悲しくないわけじゃ無いけど機嫌を損ねる発言をした私にも問題がある。
私は通用口で関係者であることを確認してもらい、テレビ局の中に入る。
一般参加みたいなものなので特に部屋も与えられていないため、混んでいない化粧室に入り自分で化粧を直す。
さてスタジオに向かおうとしたら、若い男性アイドルグループらしき一団が少し先を歩いていた。
そしてそのメンバーの一人の右肩に、長い髪の女性が彼の肩に両手をかけながらぴたりと彼の後ろをついて歩いている。
そんな彼女の服装はそろそろ初夏というのに厚いロングコートを着ていた。
「なんかさぁ、ずっと右肩が重くて」
右肩に手をかけられている男子が右肩を擦りながら上げ下げする。
その彼の手は、肩に置かれているはずの女性の手をすりぬけた。
「いい加減病院行った方がいいんじゃね?」
「もしかして幽霊がいたりして」
メンバーが手を前にしてだらりと下げ、うーらーめーしや~とわざとらしい声で右肩が重いという彼に近寄る。
やめてくれよー、と彼は苦笑いで騒いでいるが、女性が急に後ろを向きそうになったのがわかり、私は顔を背けて近くの通路に逃げ込んだ。
『まずい。
幽霊と目が合うところだった』
私には残念なことに普通の人には見えないモノ、いわゆる幽霊が見える。
それも子供の頃は幽霊の姿が普通の人間と変わらない場合があったので、普通に話しかけて周囲から不審な目で見られたこともあるほど。
親はそんな私の行動を心配して、どう接するべきかかなり困惑したようだった。
それで他の人には見えていないモノが私にだけ見えていることに気付き、そしてそれを話してはいけないのだと理解した。
小学校低学年くらいまではその影響もあって、なかなか上手く周囲と馴染めなかった。
それからは一切誰かに幽霊が見えることは話していないし、見えても無視することに決めた。
先ほどの彼女は、生前あのアイドルのファンだったのだろうか。
生きていた世界に想いが強いと成仏出来ずその場にいついて地縛霊になったり、それこそその人にずっとくっついたりする。
今まで幽霊と関わって苦い経験の数々を味わい、関わらないことが一番だと学んでいた私はその風景から申し訳ないと思いつつも目をそらし、時間をおいて目的地のスタジオへと足早に向かった。