透明な君と、約束を
私はその変化を隠すように、既に自宅で契約していた動画配信サービスでそのドラマが見られること確認していたのでリモコンを操作する。
いつの間にかソファーに座る私の横に鹿島さんも座っていて、今はこんなのがあるのか、とテレビ画面を見ながら浦島太郎的発言をしながら前のめりで見ていた。
たどり着いた画面には『それは春の想い』という題名が表示された。
下にはあらすじとして、女性会社員と男子高校生の恋物語とある。
出演者というところには、主人公の会社員「美咲」役は有名な美人女優さん、そしてその相手役である男子高校生「春」を演じるのは鹿島さんの名前が書かれてあった。
「これ、春ドラマなんだ。
いわゆる4月スタートな。
有名な脚本家さんが作ったヤツで、作品内の二人の出逢いも春。
そして二人の名前は「美咲」と「春」。
絶対に春ドラマでやるってテレビ枠を前から押さえてたから、天候とかキャストの急なスケジュール変更とかでドタバタして、ギリギリ放映に間に合った。
実は最終話の撮影は放映スタートしてもやってて、終えたのは五月だったよ」
彼はまだスタートしていない、文字と画像だけの画面をじっと見ながら話している。
実際は五年前だが、彼からすれば撮影を終えたのは一月前くらいの感覚だろう。
千世さんと一緒に最終話を見る約束前に事故で亡くなった訳だから、少なくとも鹿島さんは最終話をテレビでは見ていない。
もしかしてこれを見ることで成仏してしまうのでは、というのが心配になってきてしまう。
「ほら、スタートスタート」
笑って急かす鹿島さんに、私は仕方がないという風にリモコンのボタンを押した。
流れてくるのは春をすぐにわからせるピンク色の桜並木、穏やかな音楽。
夜、一本の大きな桜の木の下にはベンチに横たわるスーツ姿の女性。
美咲は社会人二年目、それなのに大きなミスをし上司に怒られ、残業で彼氏とのデートを遅刻したら彼は既におらず、スマートフォンには彼から別れのメールが届いていた。
ショックを受けコンビニで買ったビールでやけ酒をしてベンチで寝そべりそのまま寝てしまったのを、バイト帰りの高校二年生、春が見つけ介抱する。
そこで二人は別れてそれで終わりかと思えば、たまたま美咲が行ったお店が春のバイト先の喫茶店で、美咲はそこに通う回数が増え二人は段々と親しくなっていく。