透明な君と、約束を

「良いですね、それ。
だとしたら何の役で共演かな」
「『それは春の想い』の俺の役、春には一つ下の妹がいるんだ。
親の再婚で一緒になった血の繋がらない妹。
放映では家族の話をした時に台詞として出てきたくらいだけど、脚本家さん曰く、お兄ちゃんのことを恋愛対象としてみているという設定らしい。
そういうわけで妹が兄の交際を妨害するなんて話も入れようとしたけど、尺の都合上それは無くなったのだと残念がってたよ」
「え、私がその妹の役ですか」

内容に一瞬ドキリとした。
兄には思う人がいて、自分はすぐ側にいる関係なのにその思いを伝えることは周囲を巻き込むことになって出来ない。
ただ妹としてだけ見られ、好きな人は違う相手を思っている。
まるで今の私に近いと思えて複雑な気持ちだ。
そんな考えを見せず、鹿島さんの言われた言葉に不満そうに返すと、

「才色兼備、高嶺の花な妹なんだぞ?知世に合うじゃ無いか。
クールビューティーなんだが兄からすればほっとけない可愛い妹って感じらしいし」
「では目一杯美咲さんに嫌がらせする可愛くない妹を演じましょう」
「そこまで言ってないだろ。
俺はその妹と共演したいなって話しを聞いたとき思ったんだ。
そういう春の側面だって見てみたいし演技してみたいって。
だからそんなに嫌がらないでくれよ、本当の妹に拒否されたようでお兄ちゃんは悲しい」

両手で顔を覆って泣き真似をする鹿島さんを、私はハイハイと言ってスルーする。
鹿島さんは一人っ子だと聞いた。
本当は妹か弟が欲しかったらしい。
だからそういう関係に憧れるのだろう。

実際その当時私が子役でもしていたならば、共演するチャンスは合ったかも知れない。
そもそも鹿島さんが生きて今も俳優の仕事をしていれば、私が将来一緒に演じる可能性があったことを考えてしまう。
しかしそうだったなら私は鹿島さんとただの役者同士として知り合うだけで、きっと既に千世さんへの告白を成功させて、共演するときには既に結婚しているかも知れない。
こういう特殊な出逢い方をしなければ、きっとこんなに親しくなることは無かっただろう。
どちらが良いのかと言われれば、どちらの関係も欲しいと思うのは我が侭なことだろうか。

「ま、いつか知世が女優としてテレビに出ている姿が見たいな。
それまでには成仏しているだろうけど」
「そうしないと困ります」

冷たい、とまた悲しそうな顔を彼はする。
結局ドラマの最終回まで見ても鹿島さんは成仏しなかった。
時々私が彼が成仏してしまうのではと心配していることなど微塵も気付いていない。
やはり千世さんと直接会うしかないのだろう。
それだけ彼女の存在が大きいんだ。
偽の妹だろうが後輩だろうが、彼の側で彼の気持ちを知っている特別な位置に私は今いる。
もう少しだけこの時間が過ごせるように、私は千世さんから連絡が来ないことを祈ってしまっていた。


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