透明な君と、約束を
「もう一度電話がくるなら明日の夜かもしれない。
知世、頼む!千世と話してくれ」
苦しげな、切望する彼の表情と声に私の胸が嫌な音を立てる。
嫌だ。こんな私、気づかれたくは無い。
私は安心させるように笑みを浮かべた。
「もちろん。任せて」
彼はホッとした表情になり、ありがとう、と私にのべた。
ねぇ、今の演技は私の内面を隠して上手く出来ましたか?
貴方が求めるのは好きな人と再会し、思いを果たすこと。
やはり私が思いを告げるなんて事は間違っている。
でもその想いを隠して持つくらいは許して欲しい。
だから安心して好きな人があの世に行けるように、私は演技し続ける。
そう、決意した。
電話は翌日の夜では無く、数日後の土曜日、それも朝の九時頃にかかってきた。
本来留守電が入っていたなら折り返すべきだが、鹿島さんがやはり催促しないことと向こうも事情があるだろうしと言い訳して電話を待つことにしていた。
既に電話帳に登録してあったので、スマホに表示された着信相手に先に気付いたのは鹿島さんだった。
「知世!スマホ鳴ってる!!千世からだ!」
遅い朝食を終えダイニングのある一階から二階の自室に上がろうと階段を上がりだした私に、鹿島さんが凄い勢いで近づいてきて焦ったように声をかける。
それを聞いて急ぎ部屋に入り、スマートフォンの画面をタップした。
「はい」
『あの、柏木さんでしょうか』
「はい。千世さん、ですよね。
先日は電話に出られなくてすみませんでした」
落ち着いて話さなくてはと思っても鹿島さんが必死にその声を聞こうと私にくっつくので、仕方なく机に置きスピーカーにして話すことにした。
『いえ、こちらこそ。
わざわざ探して実家まで来てくれたのにいなくてごめんなさい。
あの、母から知世さんが渉さんの親戚と聞いたのですが、ごめんなさい、私あまり記憶力が良くない方で。
もしかして以前会ったりしていましたか?』
あぁ、私疑われているのかもしれない。
それはそうだろう。
突然こんな時期に聞いたことのない女子高生が家まで来たのだ。
鹿島さんと親しかった千世さんが警戒するのも無理はない。
恐らく有名になった鹿島さんに色々な理由をつけて寄ってきた女子を見ているはず。
私は既に考えていた設定を即座に思い出し、親戚の知世に切り替え演じる。