透明な君と、約束を
『彼はとても素敵で格好よくて、有名になる前から多くの人を惹きつけてた。
私は同じ歳なのに女友達というよりも何だか妹のように思われていて。
何かあっては泣きべそで渉ちゃんに甘えていたから。
そうすると優しくしてくれるってわかっていてやってたの、ずるいでしょ。
そんな私だけどいつか告白して、駄目でも頑張って彼を振り向かせたい、いずれ結婚したいなんて夢を見てた。
だけど彼はどんどん芸能界で有名になって、同じ学校に通っていたって私には遠い存在になっていった。
そんな時彼が言ったの。
自分がメインキャストとして初出演したドラマの最終回を一緒に見ようって。
あのドラマの仕事を受けたとき、大切な話があるから待っててくれ、なんて言われたから内心期待してしまってた。
だけどその最終回放映直前、彼は事故で・・・・・・』
途切れた声からは彼女の苦しさが伝わってくる。
ちらりと横に視線を向ければ、床に正座して膝に置かれた鹿島さんの手が、強く握りしめられていた。
『私は高校卒業後短大に進んで就職したの。
でも彼の死が受け入れられず、時折体調を崩しがちだった私を支えてくれたのが就職した先の男性。
会社では渉ちゃんとのことは秘密にしていたけれど彼なら信頼できると打ち明けて、渉ちゃんを諦めきれないそんな私でも彼は寄り添ってくれて、そんな私を支えてくれた』
「もしかして結婚のお相手は」
『えぇ、その人なの。今は息子が一人いるのよ』
彼女の声は涙声なのに明るかった。
隣を向くのが怖いと思いながらも顔を動かすと、彼は目を瞑り、歯を食いしばっていた。
やはりそんな話を聞いて、良かったなんて安心できるわけが無い。
幸せだと祈ってるはずが、幸せだという話しを聞いて辛いに決まっている。
自分が生きていれば彼女の夫という席には鹿島さんが座り、二人で幸せな家庭を築いていたのかも知れない。
今電話しているのは私と千世さんのはずなのに、私だけがこの場にいないように思えるほど二人の結びつきを強く感じる。
鹿島さんと千世さんはずっとお互いを思い、それが実ることは無かった。
そして私は既にこの世にいない人に想いを寄せ、力を貸すなんて事をしている。
こうやって二人の愛や絆を思い切り見せつけられながら。