透明な君と、約束を
私、なにやってるんだろう。
ふと自分がむなしくなる。
私の思いは叶わないのに、何で、と思ったときに、肩に大きな手が乗った。
「最後に一度だけ、千世に会ってみたいんだ」
彼の綺麗な目は少しだけ潤んでいて、何かを悟ったような諦めたような声に、私は頷くしか無かった。
彼が望むことを叶えたい。その気持ちに偽りはない。
寂しい気持ちと酷いことをこの人は言うと恨めしくもある気持ちがせめぎ合うけれど、私はそれを押し殺す。
『知世さん』
「はい」
先に向こうから呼びかけられ、一瞬声が裏返ってしまった。
返事をしながらもどうやって会うチャンスを作ろうか考える。
鹿島さんが何か案を考えてくれるかと思いきや、彼はただぼんやりとした目でスマートフォンを見ているだけ。
『一度、直接会うことは出来ないかしら。
私も渉ちゃんを知ってる人と、もっとゆっくり話がしたくて。
もちろん知世さんの迷惑じゃ無ければ、だけど』
まさかの提案に、私は喜んでと返し、会う日程はメールでやりとりすることになった。
私としても彼女に会ってみたかった。
鹿島さんが心残りするほど思う女性に会えば、私の気持ちもふっきっれるかも知れない。
挨拶をして通話を終了すれば、鹿島さんは正座したまま俯いていた。
「鹿島さん・・・・・・」
「そっか、結婚した理由がそういう理由じゃしょうがない。
なんせ俺自身が原因なんだし。
子供か、可愛いだろうな。
千世に子供なんて想像できないけど。
だって俺は高校生までの千世しか知らないから」
笑いながら彼は話しているけど俯いたままで私を見てはいない。
彼が無理して笑っているのは一目瞭然。
大切な人が幸せな結婚をしているか心配していても、それを知れば悲しむに決まっている。
そしてそんなあなたを見るのが私は辛い。
それこそ千世さんのように傷ついた心に寄り添っていれば、私にも可能性だってあったのかもしれない。
だけど現実には、貴方の恋人に私は立候補することすら出来ない。
貴方は死者、私は生者。
既に住む世界が全く違う。
きっと千世さんに会えば鹿島さんは今度こそ成仏できるのだろう。
『会わせたくないな』
自然と自分の心の中で思ってしまったこと。
鹿島さんと千世さんが会わなければ、その間は私の側に鹿島さんがいてくれる。
私だけの鹿島さんとしていてくれる。
寂しげな表情をしている鹿島さんが側にいるのに、何て身勝手な事を考えるのだろう。
この人と別れたくない。
もっと一緒に居られることは出来ないのだろうか。
そう思う自分が、酷く最低な人間に思えた。