透明な君と、約束を


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千世さんから電話を終えた日の夜、早速会う日程についてメールが来た。
あの電話が終わった後、鹿島さんはすぐに会えるようにして欲しいと私にメールをするよう急かしてくるのではと覚悟していた。
だが彼はあのむしろその事に触れず私にありがとうと言うと部屋の外に行ってしまって、その後呼びかけるまで出ては来なかった。

おそらく鹿島さんもただでさえ自分が死んだことを受け止め切れていないはずなのに、好きな人が結婚し子供までいるという事実をどう受け止めれば良いのかわからないのかもしれない。
しかし急かされないのなら悪いけれど利用させて貰う。
すぐに千世さんと会ってそのまま鹿島さんと二度と会えないくらいなら、あと少しだけ一緒に居られる時間を稼ぎたい。
彼の気持ちを知っていて、でも彼が私に手伝って貰うことを後ろめたく思っている気持ちもわかっている。
そこにつけ込む酷い人間だと思いつつ、どうしても抗いたい気持ちを消すことが出来ない。

「会う日程なんですけど、少し先でも良いですか?」

私は千世さんからのメールを鹿島さんに見せつつ、

「来月学校で試験があるのでその後に、となると一ヶ月ほど先になるんですが」

申し訳なさそうに聞いてみれば、彼は残念そうな顔ではなく笑顔を見せて、

「もちろんだ、知世の学校を優先してくれ。
こっちは我が侭を聞いて貰ってるんだから」

悪いな、と謝る彼に、ホッとすると共にやはり罪悪感が湧く。
しかし試験があって勉強をしなければいけないのは事実。
かといって、ずっと会う予定を作らないわけにも行かない。
言い訳していることくらい、自分が一番分かっている。

「試験終わってからの日程で千世さんに聞いてみますね」

鹿島さんは何も言わずに笑顔で頷いた。

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