透明な君と、約束を





千世さんと会う日程は試験を終えたその翌週の土曜日に設定した。
もっと先に伸ばさなかったのはやはり罪悪感からだ。
鹿島さんだってその間は私の側に居なければならない。
それによって彼は毎日学校に通わなければならないし、芸能クラスである以上そういう話は普通に皆がする。
彼が夢見たもう一つの世界を、嫌でも見せるのは申し訳ない気持ちになる。

そんなことを言ったって、ギリギリまで側に、私だけの鹿島さんでいて欲しい。
だからこそ微妙な引き延ばし方をしてしまった。

そんな私の下心など鹿島さんは気づくはずも無く、私が疲れて勉強をサボろうとすれば注意し、モデルの仕事に行けば人付き合いなど色々なアドバイスもくれる。
それはまるで敏腕マネージャーがついたかのようだった。


そんな折、事務所のマネージャーから今すぐ事務所に来られるかと電話があった。
運良くその日は新宿に出かけていたので、大丈夫ですと答え事務所に急ぐ。
事務所は渋谷にあって、山手線に乗り数駅で渋谷駅に着いた。
渋谷と言うより原宿よりに戻りながら事務所のあるビルに向かう。
既に初夏、日差しを避けるために日傘をし、この暑さでも服は長袖。
少し年季の入ったビルについてエレベーターで事務所のあるフロアで降りる。
ドアを開け声をかけると、私達のような下っ端モデルなどのまとめ役をしている女性マネージャーが待っていて、事務所の一角にある簡素な打ち合わせ用テーブルに案内された。
マネージャーは対面に座り、私の前に製本されていないホチキス止めされた紙の束を差し出した。
よく見ると表紙には毎週火曜日にやっている二時間ドラマの題名と、作品の題名が書いてある。

「これ、貴方も知ってる通りあの有名な二時間ドラマで放映される物よ。
そのドラマで高校に通学途中の女子高生達の一人として、出演する仕事がきてるの。
他にも数名女子高生はいるし、役に名前も無ければ台詞も無い。
だからその場に行って指示通り動くだけ。
最悪編集次第でその場面はカットされる可能性もある。
半日以上拘束だけどギャラは僅か。どうする?
今この場で答えもらえないと他の子に回すわよ」

マネージャーの声はただ要件を言っているだけで、私だから選んだという感じは受けない。
恐らくすぐ来られる女子高生ならばそれで良かったのだろう。

これはただのエキストラ。
それでもテレビに出られるなら出たいと思う子は多いはずだ。
だが伝えられた日程を聞かされ頷きながら聞いていたが、もう一度確認されて気付いた。
その撮影の日は千世さんと会う日だ!
鹿島さんにどうすれば良いか聞きたいけれど、今日は男性に見られたくない物を買うから出てこないこと、側に来ないことを約束して貰ったので恐らく側にいないはず。

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