透明な君と、約束を

どうすべきだろう。
目の前のマネージャーはすぐさま返答を欲しがっているのがわかる。
エキストラだし下手をすれば放映されない可能性もある。
そんなのよりもっと良い仕事をつかみ取れば良い。
この話に未練が無いと言えば嘘になるけれど、今優先すべきは鹿島さんの思いを遂げさせてあげることだ。
それが私の責務だと思ってこのエキストラを断ろうと決意し口を開こうとした。

「受けろよ。千世に会うのは二の次だ。チャンスは逃すな」

真後ろから一切迷いの無い声が聞こえて思わず振り返りそうになった。
私がビクリと身体を動かしたり表情が変わったのだろう、私を見ているマネージャーの眉間に皺が少し寄ったのに気付く。

良いんだ、この仕事を受けても。
会うのが延期することが申し訳ないという気持ちより、私を鹿島さんが選んでくれたようで嬉しさがこみ上げてくる。
私は予想外の声と内容に背筋を伸ばし、マネージャーに頭を下げた。

「その仕事、受けさせて下さい。よろしくお願いします」



家に戻り自分の部屋に入ると私は着替える前に鹿島さんの名を呼ぶ。
ドアの外から、いかにも呼ばれたので外から来ましたという演出を鹿島さんがしながら入ってきたのでクスリと笑ってしまう。
この付き合いも大分慣れてきた。
鹿島さんとしても年頃の女子の部屋を勝手に覗くとか、学校でもうかつに着替えなどに遭遇しないようにわざと違う場所で過ごすよう気を遣っているのだと以前弁明されたことがある。
そうは言っても家で誰もいなければリビングでテレビを勝手に見ていたり、体育館で球技の試合中、二階から見ていたりするのでそこは目を瞑ることにしていた。
そして今日はそれが逆に助けになった訳で。

入ってきた鹿島さんにベッドに座っていた私の横を軽く叩いてどうぞと言うと、彼は黙って私の横に座った。

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