透明な君と、約束を
「すみませんでした。
せっかく千世さんに会う機会だったのに」
さすがに帰り道申し訳なさで一杯になっていた私が彼の顔も見られずに謝れば、おでこが軽く小突かれた。
「先にこちらを謝っとく、側にいないように言われたのに出てきて悪かった。
一応離れてたんだがなんか知世が心配な気がしたんだ。
で、千世のことで悩ませてすまなかったな。
千世に会う機会をもう一度打ち合わせてもらう手間をかけさせるが、まずは知世の試験と初ドラマ出演が第一だ。
エキストラでも放映でカットされる可能性があっても、現場に行ける経験は何物にも代えがたい。
良かったな、良いチャンスが巡ってきて」
彼は綺麗な顔で子供のように明るい笑みを見せた。
ごめんなさい。
私はマネージャーからの提案に、ドラマに出る機会よりもまだ貴方と過ごせる時間が延びたことに喜んでしまったのに。
彼は五年、自覚が無くても彼女にまた会えることを願ってあんな場所に一人でいた。
だからたった少しの期間が延びるくらい何でも無いのかもしれないし、私に迷惑をかけていることを気遣っているからこそ、背中を押してくれたりアドバイスなどしてくれるのだとわかっている。
彼は優しく、そして努力を惜しまず才能ある人だったと、阿部さんや千世さんに聞きわかった。
でも短い期間一緒にいて、私にだってそれはわかる。
だけれど今の芸能界で彼の名前を聞くことも出ることもまず無い。
よほどの人間じゃ無い限り、多くの芸能人がいるこの世界では簡単に忘れ去られてしまう。
それが私には悔しくもあった。
「いえ、あの時実は違う理由で断りそうになったんです。
そんな放映されるかわからないエキストラより、もっと良い仕事の方が良いんじゃ無いのかなって」
今考えていた事を消すように、さっき考えてしまった本音を苦笑いしつつ言うと、鹿島さんは、は?と眉を寄せた。