透明な君と、約束を
「そんなこと考えてたのか。
そりゃどうせならもっと良い役で出たいと思う向上心は良いと思うよ。
誰だってそれを思うものでもあるしさ。
だけどな、今の知世は残念ながらえり好み出来る立場じゃ無いんだ。
何か転がり込んできたら小さな事もチャンスと思って逃さず掴め。
もちろん何度やってもそれが次に繋がらない事の方が多い。
でも現場を経験できるんだ。
話なんかで聞くよりも、その場を経験できる方が何倍も価値がある。
そんな誰もが得られない機会をみすみす逃すなんて、勿体ないに決まってるだろ。
俺の千世に会いたいという願いを叶えることは、知世からすればボランティア活動だ。
俺はそれでお前の目指すものや日常を邪魔したくはない。
まぁ知世に憑いてしまったばっかりに、日常を邪魔してるのはお前だろという突っ込みをしたいのはわかってるんだが・・・・・・」
最初は先輩風を吹かし胸を張って私に語っていたのに、最後は申し訳なさそうに身体が丸まっていくのを見て思わず吹きだした。
だが笑う私を計算していたように、彼は下から私をのぞき見てホッとしたような顔をした。
「知世は俺のことで責任を感じるなんてのは、出来るだけさせたくないからな」
そうはいっても勝手に感じるんだろうけどさ、知世は優しいからと鹿島さんは頬を掻く。
千世さんが羨ましい。
こんなに姿も心も綺麗な人に、この世にとどまりたいと思わせるほど思われているだなんて。
私のことをこんなにも褒めてもらえているけれど、その私の心中は嫉妬という最低な気持ちを抱いているのに。
「ありがとうございます。
でも千世さんに鹿島さんを会わせる約束をしたんです、必ずそれは守りますから」
そうやって笑って返すだけが精一杯だった。