透明な君と、約束を



学校に行き、リサに早速エキストラの話をすれば、大げさなほど喜んでくれ恥ずかしい。
彼女も芸能界にいるわけで、こういう仕事が簡単に次に結びつかないのは知っているはずだ。
だけどこんな風に喜んで応援する。
そういう応援がどれだけエネルギーになるのかも知っているからこそ。
だからリサのこういう気遣いが嬉しい。

「盛り上がってるけどどうしたんだよ」

今日はきちんと朝からやってきた颯真が鞄を持ったまま私達の席に近づいて声をかけてきた。
他の女子が羨ましそうに私達を見ている。
あのランキング記事もあるせいか、クラスでも、いや学校でも颯真の注目度は上がっているようだ。

「二時間ドラマのエキストラの話が来たんだよ。
まぁ名前も無いし、最悪編集でカットされる可能性も高いようなただの通行人の役だけど」
「へぇ、それでも良かったじゃん。
俺たちもさ、山のように練習するけど、それでも一回の舞台での経験に勝るものはないって先輩達に言われてる」
「それはそうよ。
こっちも日頃どんなに練習していたって、一回のステージで得られる経験に勝る物は無いから。
ま、そのステージを経験できるために日頃の練習があるんだけどさ」
「そうそう!さすが小川はわかってる!」

何故か目の前で颯真とリサがハイタッチした。
モデルでもランウェイでも歩くようなレベルの人ならその意味がわかるのだろう。
私はそういうのではない、まだまだ下っ端モデルなのでいまいち実感できていない。
ドラマの撮影ってどんな機材を使うのだろう、どんな流れで行うのだろう。
一般人の野次馬のような興味があるだけでこれで良いのかと自分が不安になる。

「撮影どこでやんの?撮影所?」
「いや、高校生達が歩くシーンだからどっかの学校近くって言ってたかな」

スマートフォンのスケジュールを確認し、颯真に場所を伝えれば、

「そこ、俺たちの育成スクールの近くだ。
時間的にも覗けそう」
「え、まさか来るの?」
「もしかして高校生男子も必要になるかもしんないだろ?」

ニヤッと笑う颯真に呆れるが、颯真はまた後で詳しい内容メールしてくれと言って席に戻りに行けば、待ち構えていたようにいた男友達と馬鹿話で盛り上がっている。
やっぱり硬派イメージなんて厳しいんじゃ無いだろうか。
とりあえず日程か、と確認しながら颯真宛にメールを打とうとすると、目の前から視線。
前の席のリサがこちらを見ながらニヤニヤしている。


「なんでニヤニヤしてるの。まぁいつもだけど」
「いやさー、工藤くんの健気さに感動してた訳よ」
「どこが健気?」
「クールビューティーが天然ってほんと罪よね」

両手を軽く挙げて、外人のように降参というジェスチャーをリサはして前を向いてしまった。
全くどう言う意味なのやら。
とりあえずいつもの揶揄いなのだろうと思って、私は颯真にドラマ撮影の日時をメールしようと文字を打ち始めた。
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