透明な君と、約束を
「あー時々見るあの男前、そういう関係だったのか」
帰宅して鹿島さんに出現OKを出してそんなことがあったのだと話せば、よくわからないことを言い出した。
「そういう関係?」
「知世ってクールビューティーに立ってれば見えるのに、中身はかなり天然だよな」
「朝、こっそり教室にいましたか?」
リサと同じようなことを言うので目を細めて鹿島さんに言えば、誤解だ、約束は守ってる!と焦ったように取り繕われた。
「疑問だったんだけどさ」
急に改まったように椅子に座り、麦茶を飲んでいた私の側に鹿島さんが来る。
「知世って好きなヤツ、いるの?」
ゴホッ!
飲んでいた麦茶がむせて思わず咳き込む。
「大丈夫か!?」
顔が真っ赤になって咳き込む私の背中を、鹿島さんが必死に私を撫でようと背中に手を回したのが雰囲気でわかった。
「なに、言って」
怒ろうと思ったら、鹿島さんが自分の手を凝視している。
よく見れば、いつもは実体があるかのようにしっかりみえる鹿島さんの身体だが、右手だけ向こうがかなり透けていて私は驚いた。
「それ」
「この頃、手が透けることが時々あるんだよ。
こうなると何も触れない。
いつもはテレビのリモコンも触れるし、ドアノブだって回せるのに。
最初は知世と離れている時間が関係しているのかもって思ったけれど、どうやら違うらしい」
もしかして千世さんに会うことが決まってあんな話しも聞いて、鹿島さんの中で何か成仏してもいいという気持ちが強まってきたとかそういうせいだろうか。
時期的に身体が消えだしてきた時期を考えれば、そう思うのが普通だろう。
それを鹿島さんはわかっているのだろうか。
「成仏までカウントダウンなのかなぁ。
もしかして千世に会わなくても成仏出来るのかも」
気弱にも聞こえるその声に、思わず彼の腕を掴む。
鹿島さんはギョッとした顔で私を見た。
「何を弱気になってるんですか!
ここまで来たんですよ?
どうせなら千世さんに会ってから成仏しましょうよ。
そうしなきゃこっちだって憑かれ損です!」
必死に大きな声で言うと、鹿島さんの目に段々光が戻ってきていて、最後は吹きだした。
「何だよ、憑かれ損って」
「何かあったら怖いから鹿島さんが地縛霊から私自身に憑いたことは言いませんでしたけど。
でもそのせいで私のプライバシーが色々と消えてるんです。
それなりに鹿島さんの手伝いまでしてるんですから、すっきりお別れしないとこっちだって微妙な気持ちになりますよ」
「微妙なのか・・・・・・」
何だか妙なところで傷ついたような顔をした鹿島さんに今度は私は笑ってしまう。
「駄目ですよ、私に何も言わずに消えちゃうなんて」
鹿島さんは優しい笑顔で、そうだよな、わかったと答えてくれた。
しかし内心では怖い。
きっと今までも手が透けることはあったわけで、もしかしたら他の部分も透けていたのかも知れない。
何故そうなっているかはわからないが、もう少しで千世さんに会えるのにこんな時期に消えるなんてことになったら酷い。
それに私だってまだ彼と過ごしたい。
頭に何かが優しく乗っかかる。
「約束するから」
体温を感じない大きな手。
そんな手が私の頭を無造作に撫で、それがこんなに安心できることなのだと思う自分が切なかった。