透明な君と、約束を



そんな試験を終え、二時間ドラマ撮影の現場に私はいた。

時間は朝七時前。
これから舞台となっている学校の門近くの道路で、主人公の妹が登校しながら友人と話すシーンの撮影が始まる。
制服は衣装として貸し出され、いつも着るブレザーではなくセーラー服を渡された。
上品なセーラー服、一度着てみたかった制服なのでこれは嬉しい。

そんな私はその学校の生徒の一人として、同じように学校に向かう為に歩くだけ。
私以外にも男子や女子、大人も含め十数名、現場指揮担当のスタッフさんから、適当に友人同士、一人で歩く人など割り振られ、私は一人で学校に向かう生徒役となった。
まだ友人同士なら会話をして下さいと指示があったが、私はただ歩くだけなので本当に声も出せない。
せめて友人同士の役になっていたら良かったのに。
これではなんのアピールのしようが無いな、とため息が出そうになったところを頭に痛みが走った。

「おい、面倒そうな顔するな」

私は少し人が集まっている縁の外側に一人でいたので、思わずその注意に小声で反論する。

「仕方ないじゃ無いですか、一人で歩くなんてアピールしようもないし」

私のやさぐれた言葉に横からため息が聞こえ、お前なぁ、と呆れた声がする。

「そりゃただの通行人だからメインの女子高生より目立つのはタブーだ。
だが、ただの通行人でも本来は人格があり各々人生がある。
このドラマで適切な女子高生を、お前なりに想像して作ってみれば良い。

何故一人で通っているのか、部活によっては歩き方の癖があるかも知れない。
自分なりにキャラを作り上げてやってみろ。
結構ドラマ見てる中にはマニアがいて、そういうエキストラを見てるヤツもいる。
それこそ有名女優になって見ろ、呼ばれた番組で、初めてドラマに出たときの柏木さんの映像です!なんて流されるかも知れないぞ?
そしてこういう現場にいるんだ、悪目立ちはまずいがそれなりにアピールは必要だ」

指を出し、私に説教するように鹿島さんが話す内容のハードルが地味に高い。
確かに昔の映像を引っ張り出して流す番組はよく見る。
ご本人が必ず恥ずかしがるアレだ。
それが私の場合はこの撮影になる可能性があるなんて考えもしなかった。

「初めての映像として残るなんて考えたこと無かったです。
それに難しいこと言いますね。
こういう役にしたいですが良いですか、とか演出さんに聞いてみるとか?」
「それはやめておけ。
この忙しい中、通行人Aの作り込みを聞く余裕なんて無いし邪魔なだけだ」

確かにそんな事をすれば邪魔な上にごまをすりに来たヤツと思われそうだ。
そういうのを聞いて良い立場じゃ無い事を自覚した上で、鹿島さんのアドバイスをどう生かすべきか考える。

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