透明な君と、約束を


「ええっと?」
「貧血ですか?
救急車呼びましょうか?」

男性は綺麗な目を丸くし、私の急な呼びかけに困惑しているようだった。
それにしても声も男性にしては透き通ったようで綺麗。
歌が上手そうだなんて変な事を思いつつ再度心配になり呼びかけると、彼は不思議そうな顔で私を見つめた。

「俺を見ても驚かないんだ」
「どういう事、でしょうか」

あれ?まさか幽霊じゃないよね、この人。
急に、しまったと焦り出す。
彼は私の反応に眉を下げ、

「これでも人気あると思うんだけどな~。
『鹿島 渉』って知らない?」

あぁなんだ、そういう意味か。
いえ、知りません、ときっぱり答えれば、彼は酷くショックを受けたようだった。

「えー、俺が初めでメインキャストとして出たドラマ、かなり好評だったんだけど。
主役の女優さん目当てが多いのはわかっていたよ?
でも女子には俺がかなり注目されてるってネットでも反応良かったのに。
やっぱ現実ではまだまだなんだなぁ」

彼は子犬のような顔でわざとらしいほどにしょげた。

ドラマ?この人俳優なんだ。
確かにこんな美形、芸能界が放っておくはずがない。
アイドルかモデルなのかと思ったけれど俳優とは。
いや、今はアイドルで俳優をしている人もいるしよくわからないが。

まだ不思議なことに周囲には誰も人がいない。
彼が一人で立てないなら周囲に助けを求めなくてはいけないが、どうしようか。
そんな心配をしていたら彼は一人でゆっくりと立ち上がり、一気に私の目線は上を向くことになった。
だがその顔色はいまいち良くないように思える。
隣には大型トラックも通る幹線道路。
今も制限速度なんて気にしないで私達の横を車がどんどん過ぎ去っていく。
こんな危ない道路なのにふらりと道路側に倒れては大変だ。

「とりあえずここは危ないです。
まだ調子が悪いなら近くの公園に行きましょう、ベンチがあるのでしばらく座っていた方が良いですよ」

彼はそうだね、と言って私に笑いかけるとすんなり歩き出した。

大通りから一本入ったところは住宅が広がっている。
少し歩いてお目当ての小さな公園に到着した。
周囲は戸建てやアパートがあって、この公園には小さな遊具と砂場、そしてそこで遊ぶ子供を見守るためにかベンチがいくつかある。
私達は誰もいない公園を少し入り、木のベンチを見つけるとそこに二人で並んで座る。
何だか疲れ切っている彼を見かねて、私は自分用に買ってきた飲み物を袋から出すと差し出した。
彼は嬉しそうにありがとうと言って、ペットボトルの蓋を開けようと手を掛けた。

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