透明な君と、約束を
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ようやく伸びに伸びた千世さんと、とうとう会う日。
私は千世さんの自宅に伺うことになった。
お子さんが小さいので外に行きづらいということでそうなったのだが、渉ちゃんの写真を見せてあげると言われたのは、彼に想いを寄せる私にとってラッキーな事。
そんな鹿島さんは前日から私に見えない場所にいるらしく、出てきても心ここにあらずというような表情であまり会話もしてこなかった。
あの実家に行く日のそわそわ出てきていた時とは全く違う。
千世さんの事だけ考えているのはわかるけれど、私だって今の状況、いやこれから起きることを考えて実はよく眠れなかった。
だって今日千世さんに鹿島さんが会った途端、成仏してしまうかも知れないのだ。
ショックなことがあろうと無かろうと、千世さんに会うという一番成仏する条件と思われるのが今日なのだから、これでお別れの可能性が高い。
だから鹿島さんと最後二人で話したかった。
せめてお礼を伝えたかったのに、前日からあんな表情でぼーっとしているのを見れば声をかけられなかった。
鹿島さんの中では千世さんのことだけで、私と別れることは二の次というか考えてくれているのかどうかもあの状態なら怪しい。
私も今まで彼を邪魔な存在だ、早く成仏して欲しいとあからさまに態度にした以上、私がまさかまだ一緒に居たいと思っているなどとは思わないだろう。
一緒に過ごした時間はそんなではないのに、今や彼は、私にとって大きな存在になってしまった。
業界の先輩で、時に厳しく時にお兄ちゃんのように支えてくれて。
その度に鹿島さんへの思いを募らせても全く意味は無いというのに、感情という物はそれで制御できるものでは無いと痛感した。
苦しい思いとは今日で最後。
彼がいなくなればもう考えることも無くなるはず。
そう必死に自分へ言い聞かせていた。
電車を乗り換え千世さんの自宅近くの駅に向かう。
電車内は割と人がいて私は吊革に掴まっていた。
周囲に人がいるからか少し離れた場所にいる鹿島さんの表情は、俯いて暗いようにすら思えた。
なんて彼に言葉を掛ければ良いのか思いつかない。
どんどん私と過ごす時間は減っていくというのに。