透明な君と、約束を
結局人もいるので会話することも無く言われた駅に到着して、人混みに紛れながら改札を出る。
改札の外はお店などがあったり、待ち合わせの人などがそれなりにいて私は電話をしようかとスマートフォンを鞄から取り出そうとした。
「千世・・・・・・」
呟くような声。
思わず横にいる鹿島さんを見て、その視線の先を見た。
そこには、ロングスカートにティーシャツ、抱っこひもで小さな赤ちゃんを抱えた女性が立っていてキョロキョロと改札から出てくる人達を見ている。
あぁ間違いない。
私は彼女に近づく。
「千世さん、ですか?」
私の言葉に彼女は表情を崩し、私は名前を名乗り挨拶を交わした。
鹿島さんと同じ歳だった千世さんは、髪を一つに結び背も低くとても可愛らしい女性だった。
彼が学生時代可愛かったという言葉通り、きっと高校生の時もモテていただろう。
視線だけ横を見れば、ただ食い入るように鹿島さんは千世さんを見ている。
私とは正反対の女性。
私は背が高くてクールビューティーなどとは言われるもののようは冷たい雰囲気がある。
きっと男子が大好きで守りたくなるような千世さんと、その反対にいるのが私だろう。
そっか、そうだよね、男子はきっとこういう可愛い女子がいいよね。
優しく話しかけてくる千世さんと言葉を交わしながら、そんなことを考えてしまう自分が情けない。
二人で、いや鹿島さんも居るけれど、駅から徒歩10分強のところにあるマンションに着いて部屋に招き入れられた。
リビングに入ると、ローテーブルの上には子供の写真と千世さんと旦那さんらしき人の三人の写真などがいくつか飾られている。
その全てが笑顔の写真だ。
「これ、よろしければ」
私は地元の洋菓子店で買ったお菓子の入った紙袋を渡すと、彼女は恐縮しながら受け取ってくれた。
「知世さん、ケーキは食べられる?」
「はい、大好きです」
彼女は寝てしまった赤ちゃんを専用のベッドに寝かせると、キッチンに向かったので手伝いを申し出た。
鹿島さんを見れば寝ている赤ちゃんをじっと見下ろしていて、その表情を見ても彼が今抱いている感情はわからない。
「良かった、モデルさんって聞いたのについ買ってしまって」
「甘い物大好きなので気をつけていますが今日は大丈夫です」
千世さんが申し訳なさそうにしながらケーキを出すので、私も飲み物などを出すのを手伝ってダイニングテーブルに二人向かい合わせに座る。
気が付くと鹿島さんは私達から少し離れた場所で立ったまま、ただじっと千世さんを見ていた。
もうきっと鹿島さんの世界に私はいない。
それをわかっていたのにやはり辛い。
だけど最後まで私は演技をすると決めたんだ。
好きな人の為に。