透明な君と、約束を
少しだけでも二人だけにしてあげたい。
きっと千世さんは何か言葉を鹿島さんにかけるはず。
でも外に出た本当の理由はそんな二人を見ているのが辛かったからだ。
トイレのドアを閉めそのドアにもたれかかる。
千世さんに鹿島さんは見えていない。
なのにまるで思い合っているからこそ届いているかのように、二人の視線は熱く絡み合った。
そんなのを目の前で見せつけられて、耐えろという方が無理だ。
好きな人が、この世に未練を残したほど愛している人と見つめ合っている。
二人の世界から私ははじき出されたような気がして、その場を逃げ出した。
忘れていた、彼が高校二年生だということを。
時々意地悪で、でもいつも応援してくれて、そして私に約束させたことを気に掛けている。
だけど彼は死んだときのままの高校二年生。
私とは一つしか違わない。
勝手に、彼は大人のように思っていて高校生の私とは違うのだと思い込んでいた。
自分がもしも数年後に飛ばされて、周囲はみな大人になっていたら。
そして自分の思う人は別の人と幸せになっていたら。
そんなの、耐えられるわけが無い。
ずっとずっと堪えていたんだ、鹿島さんは。
もしかすると私がいない間に千世さんから何か言葉を貰い、鹿島さんはそれによって成仏してしまうかも知れない。
約束は果たした、それでいいはずだった。
だけど再度リビングに行けば彼の姿を見ることがもう出来ないのかもと考えると恐ろしい。
私は何故あんな相手に恋をしてしまったのか。
そんな自分がただ馬鹿にしか思えない。
羨ましい。
こんなにも彼をただの高校生にしてしまう千世さんが。
私にはそんなこと出来なかった。
本当なら先輩後輩、ただの一歳差のはずだったのに。
彼はあくまで私を妹のような、そして巻き込んだ事への罪悪感を感じながら接していた。
もっと沢山彼の言葉を聞いていたらどうだっただろう。
でもそれはきっと千世さんへの思いを聞かされるだけ。
そんなのは耐えられない。
やっぱり千世さんが羨ましい。
彼を五年あそこに閉じ込めたのも、そして彼を自由にさせられるのは千世さんだけ。
そんな特別な存在である彼女がただただ羨ましく、そして妬ましく感じる。
好きな人の幸せを応援してこそ、なんて所詮は言葉だけだ。
こんなにも自分が醜い感情を抱くなんて思わなかった。
なんて嫌な女だろう。
鹿島さんからすれば私の気持ちなんて迷惑なだけなのに。
自分が、本当に嫌だ。