透明な君と、約束を
そして自分の乗る電車のホームに向かう階段を上がりながら、頭の中はぼんやりしてしまう。
だって私の側に、もう鹿島さんは居ない。
あまりに消えるときはあっけなかった。
せめてお礼ぐらい言いたかったのに。
違う、あなたが、鹿島さんが好きでしたって言いたかった。
だけど彼にとっては私なんかより千世さんとの事が解決すれば良かっただけで。
それを私だって最初はそれを願って千世さんと会う為に行動したのだ。
きっとこんなに好きだと思った男性は初めてだと思う。
その相手が既にこの世にはいなくて、幽霊で、そして知らぬ間に成仏して消えて。
初めてここまで好きになった人とこんな別れ方、なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。
意地を張らずに昨日話しをしたいと言えば良かった。
どうせ駄目でも思いを伝えておけば。
私は彼が幽霊でも消える可能性を予測できた。
だからその前に行動することだって出来たのにそれをしなかった。
千世さんは、そして鹿島さんはそんなことも出来ずに突然永遠の別れとなった。
それなのに、わかっていたのに。
やっぱり自分は馬鹿だ。
気を抜いてしまえば一瞬で大量の涙が出そうだ。
「ほんと馬鹿だな、私」
「何が馬鹿なんだ?」
勢いよく振り向けば、そこには少し向こうが透けて見える鹿島さんが首をかしげていた。
「な、なんで、成仏したんじゃ」
周囲のことなど忘れ指を指す。
何で鹿島さんがいるの?
成仏したんじゃ無かったの?
というかさっきまでいなかったのに!!
「それがさ、俺もあ、これ成仏したなって思った訳よ、ふわーって空に吸い込まれる感じがあってさ。
なのになんか知世が泣いてる気がして、心配だな、様子見に行かなきゃって思ってたらここにいた」
へら、と笑う彼を見て膝が崩れる。
なんだそれ。
私が彼が成仏しかかったのをこの世に引き留めてしまったととでもいうの。
「おい!こんなところでしゃがめば不審に思われるぞ!」
ちょうど人がいなかったので私はよろよろしながら何とかホームに行き、その端っこにあるベンチに腰を下ろすと前に立っている鹿島さんを見上げる。
彼は居心地が悪いのか私と目を合わせない。
「千世さんに会ったのに、何で成仏しないんでしょうか」
周囲に人がいないことを確認して小さく声をかけると鹿島さんも頭をかいて、
「何でだろ、俺もわかんないよ。
今日消えるんだろうなって覚悟してたから肩透かしにあったというか」
息を吐き、彼自身もやはり今日消えると覚悟していた事を知り、それなら先に私へ別れの言葉くらいくれてても良かったんじゃないだろうか。
それだけ千世さんの事しか頭になかったと言っている自覚は無さそうだ。