透明な君と、約束を
公式サイトでは最速動画配信を同時に見ようというイベントが行われていて、ネットでは事務所から公式タグを使ってツイート、などと既にお祭り前のような状態。
SNSでも楽しみだ、トレンド一位とろう!などとコメントが溢れている。
大きめのタブレットを用意し鹿島さんと並んで公式サイトを出して待っていると、画面が十からカウントダウンの数字を映し出す。
3、2、1。
そして九時と同時にCMが始まった。
静かなイントロ。
真っ暗な中で六人が順々に下からのライトに照らされる。
黒い衣装を纏い、俯いている彼らに全員ライトが当たったと同時に、真っ白な花びらで画面は覆い隠さた。
それが一瞬で吹き飛ぶと、あの時に見たタキシードのような衣装を着た彼らが現れた。
流れる新曲、一糸乱れぬダンス。
そして例のシーンが映り始めた。
メンバーごとに花嫁に見える女性をエスコートしたり、はしゃいだり、髪を撫でたりと画面は移り変わる。
そして颯真のシーン。
颯真は愛しそうな目で黒髪にキスを落とす。
次のシーンでは驚くほどに情熱的なまなざしで私の手を取った。
画面に見える私は髪の毛と手。あとはドレス。
見事に私の顔は映っていない。
こんな風に画面を通すとあの撮影は見えるんだ。
そしてあの時悔しさを感じるほどの颯真の表情に、この画面を見ながらも釘付けになっていた。
CMということであくまで曲の抜粋、長さは半分程度。
最後に今夜零時、先行で音楽配信で購入できる、雑誌インタビューとかの宣伝が続く。
見終わってすぐネットを見れば、興奮のコメントが並んでいた。
案の定、あの女性が羨ましい!というのが並び、各メンバーへの熱いコメントを見てみれば、颯真の表情で心を打ち抜かれたという悲鳴が多くて思わず笑ってしまった。
「良い編集だったな。
女性のカットも絶妙だし、何よりメンバーの個性を表した作りだ」
「本当に。
颯真も硬派イメージってのが壊れないのか心配でしたけど、ネットではかなりの好印象でホッとしました」
「そりゃそうだろう、相手が相手だ、熱くもなるだろ」
「颯真ってやっぱり演劇も興味あるんですね。
きっと裏ではかなり練習してたんだろうな。
そっちでも私より先に有名になりそう」
「知世、お前という子は・・・・・・」
身長どころか何もかもが抜かれていく現実が悲しいと打ち明ければ、鹿島さんは残念な物を見るような目で私を見た。
それが納得いかないものの、私は思いの丈を目一杯メッセージにこめ颯真に送る。
忙しいのかしばらく既読にもならなかったが、ガッツポーズのスタンプが返ってきたのでホッとした。
とにかく私が足を引っ張ることにならずに済んだし、きっと颯真達はこれからどんどん前に進むのだろう。
何だかそれが嬉しいし、そして悔しかった。