透明な君と、約束を

時計を見れば収録まであと五分ほどになっていた。
生放送では無く収録とは言え、そろそろスタジオでは全員席に座っている時間。
後で放映を見るのを楽しみにしようと思っていると、外からバタバタとかなりの音を立てて走る足音が聞こえてきて私は立ち上がる。

「すみません!!
ここに閉じ込められてます!!」
「知世!ドアから離れろ!」
「颯真?!」

ドアを必死に叩きながら叫べば、それが颯真の声である事に驚く。

「待って!もう時間だからスタジオに」
「良いからどいてろ!」

私の言葉を無視し、外ではガタゴトと物が動く音がしてドアが勢いよく開いた。

「知世!」

パーカーにジーンズというカジュアルな服装の颯真がドアから飛び込んできて、私を思いきり抱きしめた。
走って来たのか服を通してでもその熱い体温が伝わってきて、私は思わずその大きな背中に手を回しぎゅっと抱き返す。

生きている。
もしも彼が生きていたらこういう風に出来たのだろうか。
私は彼の顔を覗き込み、

「鹿島さん、助けに来てくれてありがとう。
でも颯真がスタジオに戻らないと不味いの」

颯真の目が見開かれた後、クスリと笑う。
不思議なことに目の前の颯真は颯真であるはずなのに、今は鹿島さんにしか見えない。

「ご名答。流石は知世」

そう言って颯真が一瞬ぼんやりした後、ハッとして私を見た。

「トモ?!」
「颯真、話は後で。
今すぐスタジオに行こう!あと三分!」
「えぇ?!」

颯真は私から慌てて離れまだ混乱しているようだが、私は颯真の手を取って走り出した。

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