透明な君と、約束を
「約束ですか?」
彼が寂しげに笑う。
「千世っていう中学からの友達にさ、ドラマの放送最終回一緒に見てから告白するつもりだったんだ。
それも結婚前提で付き合って欲しいって。
この仕事貰ったとき思わせぶりに、話したい大切なことがあるから待っててくれ、何て言ったけど、五年も過ぎてるんじゃ・・・・・・」
そうか。
彼がこの世に未練を残しているのは芸能界ではない、彼女への思いなんだ。
五年。
年齢を考えれば女性に彼氏がいたっておかしくないし、早ければ結婚している可能性だってある。
「しかし俺、どうすればあの世に行けるんだろ。
五年あそこにいて誰も気付かれなかったし、そもそも五年経った実感無いし」
成仏する方法、それはこの世の未練を断ち切るしかない。
それは彼女に告白することなのか、どうなのか。
だけれどまずは、その好きな人に会わなければおそらく無理だろう。
「君、名前なんて言うの?」
ふいに彼が無邪気な笑顔で問いかけてきた。
だいたいこの続きは想像がつく。
同じ業界で夢を成し遂げたのに反面、成仏出来ないほどの本当の夢を成し遂げられなかった彼を思うと、私は想像できる続きをきっと受け入れてしまうだろう。
「柏木 知世です」
「ともよ?漢字は?」
「知識の知に世代の世です」
「すげぇ、千世も数字の千に同じ世だよ。
なぁ、頼む!
千世がどうしてるか知りたいんだ。
俺を千世に会わせてくれ」
ほらね、予想通り。
そう言われてしまえば逃れられない。
私はすがりつくような綺麗な顔の幽霊に、ため息をつきつつ期間限定なら約束しますよ、と答えると彼は破顔してあぁ約束だと私に右手を差し出した。
「じゃぁ改めて。
初めまして、鹿島 渉です」
「初めまして、柏木 知世です」
初めて握った幽霊である彼の手は私の手より大きいのに、何の体温も感じなかった。