透明な君と、約束を


無事ギリギリ収録時間前に颯真と私はスタジオに滑り込めば颯真だけが注目されたので、私はそのまま末席に紛れ込む。
颯真は突然席を立ったのだろう、周囲に頭を下げて回っているのが見えた。
私が周囲を見回すと少し先の席で私を閉じ込めた子が私が見ている事に気付き、驚きの表情を浮かべている。
きっと私の顔は鬼の表情だったのか、それとも無表情だったのか。
彼女は顔を強ばらせると、すぐに顔を背けた。

そのまま無事収録を終え解散の声がかかる。
観客席からバラバラと人がスタジオから出て行くその波に隠れ、一目散に逃げようとしたその子を捕まえた。

「放してよ!」
「良いの?
ここで全部喋っちゃって」

まだ近くを通りながら出口に向かっている参加者達が何事かと見ている。
私は逃げないよう彼女の手を掴んで、スタジオの奥の使われていないセット裏に引っ張った。

「なんで私をあんな場所に閉じ込めたの?」

彼女は顔を背けたままだ。

「私、この番組不参加になれば事務所から怒られるし遅刻したのは事実だから報告しなきゃならない。
貴女がそういうことをしたってことをもちろん報告するから」
「すれば?」

彼女は急に私の顔を向き、睨み付けた。

「すれば良いじゃ無い。
この仕事、颯真くんから直接オファーあったんでしょ?
それどころかあのCM!
颯真くんと組んでたの貴女よね?!
なんで同じクラスだったってことだけでそんなに優遇されるの?
何を彼に言ってそそのかしたの?
有名になりたいが為に彼を利用するなんて許せない。
私は彼に純粋に近づきたくて必死なのに!」
「言っている意味がわからないんだけど。
まさか、こういう仕事してるのは颯真に会うため?」
「そうよ!
中学の時に初めてモデルの仕事したとき、緊張して上手くいかなかったところを同じく参加していた颯真くんが励ましてくれた。
わざわざ飲み物とか持ってきてくれて。
彼に同じ中学なら良かったのにって言ったら、彼は寂しそうに笑ったの。
あぁ彼は私と一緒に居たかったんだってわかった。
私があの学校に通っていたら、貴女じゃ無く私がそのポジションだったんだから!」
「何の話?」

叫ぶように喚いている彼女の言葉を遮るように、後ろから颯真が現れた。
だけれどその表情は見たことが無いほどに冷たい。

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