キスのその後に
9.木村香織
木村香織は、グラスに入ったビールを一気に飲み干した。
「あぁ…最高。」
思わず声が漏れる。
1日の仕事を終えた後に、同じビルの中にあるこのバーで酒を飲むことが、香織の楽しみになっている。
カウンターの向こう側で、店長の青木翔太が笑い出した。
「香織さん、もう一杯いきます?」
「うん。お願い。」
翔太は空になったグラスを下げ、新しいグラスにビールを注いだ。
「今日の結婚式はどうでした?」
香織の前にグラスを置く。
「うーん…。なんか久しぶりにエグい結婚式だったかな。」
「エグい…ですか?」
香織はこの街のコンベンションセンターの最上階にある結婚式場で、ウエディングプランナーとして働いている。
もともとは他の式場で働いていたのだが、5年前にこのビルがオープンしたタイミングで、転職をした。
理由は単純に、給料が良かったからである。
シングルマザーの香織にとって、やはりそこは譲れない。
しかし給料が良いだけあって、ここの式場は思っていたより忙しい。
ほぼ毎週のように結婚式の予約が入っているし、合間を縫って準備や打ち合わせもある。
前の職場の時よりも休みが減り、子供と過ごす時間もなかなか取れない。
それでも好きな仕事と子供のためと思って、毎日頑張っている。
「エグいって、どんな感じで?」
翔太がグラスを片付けながら、興味津々の顔で聞いてくる。
「式の間ずっと、新婦が殺気立ってたの。なんかおかしいなって思ってたら、誓いのキスの時に新郎の唇を噛んだわけ。」
香織はビールを一口飲んだ。
「噛んだ?甘噛みみたいなことですか?」
翔太が首を傾げる。
「違うよ。出血してたもん。唇の皮を噛みちぎったってこと。」
「え、こわ。」
翔太は、手で自分の口を抑えた。
「新郎の浮気が発覚した、とかだったりしてね。もしかしたら、会場にその浮気相手がいたのかも。」
香織はニヤリと笑った。
「…ヤバいっすね。」
「翔太くんも結婚する時は、いろいろ整理してからにしなよ。私、相談に乗ってあげるから。」
「僕は…。」
翔太が何かを言いかけたが、「店長」と他の従業員が彼を呼んだので、そこで会話は途切れた。
「すみません。」
そう言うと、翔太は裏のキッチンへ消えて言った。
「あぁ…最高。」
思わず声が漏れる。
1日の仕事を終えた後に、同じビルの中にあるこのバーで酒を飲むことが、香織の楽しみになっている。
カウンターの向こう側で、店長の青木翔太が笑い出した。
「香織さん、もう一杯いきます?」
「うん。お願い。」
翔太は空になったグラスを下げ、新しいグラスにビールを注いだ。
「今日の結婚式はどうでした?」
香織の前にグラスを置く。
「うーん…。なんか久しぶりにエグい結婚式だったかな。」
「エグい…ですか?」
香織はこの街のコンベンションセンターの最上階にある結婚式場で、ウエディングプランナーとして働いている。
もともとは他の式場で働いていたのだが、5年前にこのビルがオープンしたタイミングで、転職をした。
理由は単純に、給料が良かったからである。
シングルマザーの香織にとって、やはりそこは譲れない。
しかし給料が良いだけあって、ここの式場は思っていたより忙しい。
ほぼ毎週のように結婚式の予約が入っているし、合間を縫って準備や打ち合わせもある。
前の職場の時よりも休みが減り、子供と過ごす時間もなかなか取れない。
それでも好きな仕事と子供のためと思って、毎日頑張っている。
「エグいって、どんな感じで?」
翔太がグラスを片付けながら、興味津々の顔で聞いてくる。
「式の間ずっと、新婦が殺気立ってたの。なんかおかしいなって思ってたら、誓いのキスの時に新郎の唇を噛んだわけ。」
香織はビールを一口飲んだ。
「噛んだ?甘噛みみたいなことですか?」
翔太が首を傾げる。
「違うよ。出血してたもん。唇の皮を噛みちぎったってこと。」
「え、こわ。」
翔太は、手で自分の口を抑えた。
「新郎の浮気が発覚した、とかだったりしてね。もしかしたら、会場にその浮気相手がいたのかも。」
香織はニヤリと笑った。
「…ヤバいっすね。」
「翔太くんも結婚する時は、いろいろ整理してからにしなよ。私、相談に乗ってあげるから。」
「僕は…。」
翔太が何かを言いかけたが、「店長」と他の従業員が彼を呼んだので、そこで会話は途切れた。
「すみません。」
そう言うと、翔太は裏のキッチンへ消えて言った。