キスのその後に
5年前に翔太と出会った頃は、彼はまだ接客業にも慣れていない、大学生のアルバイトだった。

カクテルも上手く作れてなかったのに…成長したもんだわ。

香織はカウンターの向こう側の翔太を見つめた。

黒髪のセンター分け。目は二重で色白で、綺麗な顔をしている。
大学生の頃は可愛らしい印象だったが、5年経ち、少し大人の色気が加わったような気がする。

あれから5年だから…今は28歳とかかな。

「香織さん、今日はもう閉めようと思うんですけど。」
翔太が、棚にグラスを並べながら言った。

周りを見ると、店内には香織しか客がいないようだった。

「あ、ごめん。もうそんな時間?気づかなくて…。」
香織は慌てて、椅子から立ち上がろうとした。

「あ、違うんです。」
翔太が振り返った。
「今日はもうお客さん来ないと思うんで、香織さんと一緒に僕も飲もうかなって。」

「…え。」

「他のスタッフはさっき帰らせましたから。」

「…嫌ですか?」
翔太が真顔で聞いてくる。

「…。」

…嫌じゃないです。

香織は心の中で答えた。

何だか顔が熱い。
まだそんなに飲んでないのに。

「じゃあどうぞ、座ってください。」
翔太が笑顔になる。

心の声が聞こえたのだろうか。

香織が椅子に座り直すと、翔太がビールの入ったグラスを持ってこちら側に出てきた。

「隣、座っていいですか。」
そう言うと、返事も待たずに左隣の椅子に座り、香織の方に体を向けた。

目が合う。

距離が近い。
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