キスのその後に
「あっ、すみません。香織さんの飲み物ないですね。」
翔太は立ち上がり、カウンターの向こう側へと入っていった。

「何飲みます?甘いのとか?」

「あー…うん。ミルク系とかある?」
香織はカウンターに頬杖をついた。

「じゃあカルーアミルクとかにします?香織さん、世代ですよね。」
翔太が意地悪そうな顔で笑う。

「あ、今ディスったでしょ。」
香織はわざと顔をしかめた。

ま、嫌じゃないけど。

「怒らないでくださいよ。最高においしいの作りますから。」
そう言うと翔太は、手際よくリキュールとミルクを用意し、シェイカーを振った。

さすがに様になっている。

かっこいいな。

「翔太くんがシェイカー振ってる姿、私好き。」
思わず口に出してしまった。

すぐに後悔して、香織は両手で顔を隠した。

ビールを3杯も飲んだからだ。しかもかなりのスピードで。
「私好き」って、40歳手前の女が20代の男の子に言う言葉じゃないでしょ。

耳まで熱い。

めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。

「じゃあ、僕と付き合います?」

香織は一瞬、呼吸が止まった。

翔太が発した言葉を理解するのには、少し時間を要した。

久しく聞くことがなかったその言葉。

「…え?」
香織はゆっくり顔を上げた。

翔太は、出来上がったカルーアミルクを可愛らしい丸いグラスに注いでいる。

最後にミントの葉を乗せると、香織の前に置いた。

「付き合いませんか。僕と。」
そう言って、真っ直ぐ見つめてくる。
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