キスのその後に
「えっと…。」
香織は言葉に詰まった。

目の前に置かれたグラスに両手を添えたまま、翔太を見る。

この状況は一体なに。

この子は、一回りも年上の女をからかって反応を楽しんでいるのだろうか。

「付き合うって…私と翔太くんが?」

「そうです。」
翔太は真顔で答えた。

「付き合うって…そういう付き合う?」

「はい。」

本気?
まさか。

「…僕じゃダメですか?」
翔太が少し不安そうな顔をする。

いつかのドラマで聞いたような言葉。

動揺するな、私。

香織はカルーアミルクを一口飲んだ。

甘さが脳を刺激する。
口が滑らかになる。

「いや、ダメとかそういうことじゃなくてさ。」
ふっと鼻で笑った。

「一回りも歳が違うのに、付き合うとかないでしょ。」

「僕は気にしませんけど。」

「私バツイチだし。」

「知ってます。」

「高校生の娘がいるし。」
   
「それも知ってます。会ったことはないですけど。」

「それに…。」

それに何だろう。

香織はもう一口カルーアミルクを飲んだ。

あと何がある?
この若い男の子の、気まぐれとも思える申し出をそれとなく断る…理由?

考えろ、考えろ…。

「他に何かありますか?僕を拒否る理由。」

いつの間にか、翔太が隣の椅子に座っていた。香織の方を見ながら、笑みを浮かべている。

やっぱり心の中を読まれてるのか?

香織は小さくため息をついた。
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